私は、この、社会に出る以前にまとまって労働法を学ぶ機会がないということについて、2007~2008年ごろから問題意識を持って社会に提起してきた。2009年には、学校現場で労働法を学ぶことの大切さについて、書籍を通じて訴えた(『労働法はぼくらの味方!』岩波ジュニア新書)。また、学校教育の現場での副教材として、『学校で労働法・労働組合を学ぶ』(共著、きょういくネット)という出版にも関わった。

このころから、教育現場には変化が起き始めたと思われる。

実際、高校や大学の教育プログラムの中で、労働法について講義をしてほしいという依頼を私は頻繁に受けるようになった。近頃は、「ブラック企業の特徴」などについても教えてほしいという依頼を受ける機会も増えている。

1回限りでは伝えきれない

このこと自体は、とても良いことである。卒業生をブラック企業に送り出して彼らをつぶすようなことがあってはならない──教育の現場からの、とても健全な問題意識に基づく依頼だと思う。

しかし、こうした取り組みだけではまだまだ足りない。

なぜなら、こうした教育プログラムはほとんどの場合、1回限りで、しかも2時間程度の特別講義だからだ。これでは、労働法の考え方や意味などは伝えられても、法の具体的内容を詳細に伝えるのには時間が足りない。せめて、2時間の講義を3回くらいやらせてもらえれば、相当の内容が伝えられると思う。

中には一部の教員たちの先進的な取り組みとして、具体的な事例に基づいて生徒たちに考える機会を設ける、自分のアルバイト先の契約書や就業規則を持ってこさせて、労働法と照らし合わせるといった授業を社会科で試みている例はあるものの、これらは一部にとどまっているのが現状だ。

笹山尚人(ささやま・なおと)
弁護士。1970年、北海道札幌市生まれ。1994年、中央大学法学部卒業。2000年、弁護士登録。第二東京弁護士会会員。東京法律事務所所属。弁護士登録以来、青年労働者や非正規雇用労働者の権利問題、労働事件や労働運動を中心に扱い、活動を行っている。著書に、『人が壊れてゆく職場』(光文社新書)、『労働法はぼくらの味方!』(岩波ジュニア新書)、共著に、『仕事の悩み解決しよう!』(新日本出版社)、『フリーターの法律相談室』(平凡社新書)などがある。
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