感性を磨き頭を柔軟にする訓練を

接客業では「お客さまを言い負かしてはならない」という鉄則がある。この場合、「言い負かす」というのはお客さまを全面的に否定することだけでなく、指示をするような口調でもお客さまは気分を害すことがある。たとえお客さまが間違っていたとしても、こちらは一歩も二歩も引き下がって寛大な気持ちで接することが必要であり、言葉は時として相手の自尊心を傷つけてしまうことになる。

「トンボの眼」と「ダンボの耳」で接客のサービスマインドを磨くには、視野を広げる訓練も必要となる。レストランのマネジャーに聞いた話を紹介しよう。

オーダーを伺うとき、お客さまの心が決まった瞬間にオーダーを取るのが一番よいサービスとされている。では「オーダーが決まった瞬間とはどこですか?」と聞いてみると、大半の人は「メニューを閉じたとき」と答える。でも、メニューを閉じたときはもう心が決まったあとだ。決まった瞬間、メニューを閉じる前にお客さまのところに立つにはどうしたらよいだろうか。

メニューを見てページをめくっているうちにお客さまの視線が落ち着いて一点で動かなくなる。そのときこそ、オーダーが決まった瞬間だ。お客さまの目の動きを見ているとわかるようになる。一流のウエーターになるとお客さまの背中を見ているだけでもわかる。心が決まった瞬間に安堵感で背中の緊張感がふっとほぐれるからだ。何事も意識して見ようとすることで、よく見えてくるようになるのである。

観察眼や感性を磨くのに特別な訓練をする必要はなく、日頃のちょっとした心がけでできる。たとえば、1駅手前の駅で降りてふだんとは違う町並みを散策してみたり、1本違う通りを歩いたりするだけでもいい。他人のちょっとしたしぐさや何気ない動作を見て、「この人は今どんなことを感じているのかな」と想像してみよう。日常生活をマンネリ化させずにちょっとしたことでも敏感になる訓練をすれば、ぐっと感性が磨かれ頭が柔軟になるはずだ。