また、売り上げの変動リスクが高い業界も、保有するキャッシュが多い傾向があります。たとえば、任天堂はゲーム機の「Wii(ウィー)」が好調だった後、3期連続営業赤字に陥り、売り上げはピーク時のほぼ3分の1に落ち込みました。しかし、キャッシュを大量に保有していたことで窮地を脱することができました。

任天堂はキャッシュを大量に保有していたことで窮地を脱した。(時事通信フォト=写真)

逆に、キャッシュ・マネジメントがしやすい業界は、キャッシュをあまり必要としません。たとえば、鉄道会社のキャッシュ・フローはかなり読みやすい。日銭が入ってきますし、平日/休日や天候などによって収入を予想できるためです。電気などのインフラ系も、同様に収入を予想しやすい業界といえます。

大企業や格付けの高い企業も、キャッシュをあまり必要としません。いざというときに資金調達がしやすいからです。逆にキャッシュを持っていると機会費用がかかるため、できるだけキャッシュを減らして総資産を圧縮し、そのぶんを事業に投下して利益率を高める傾向があります。

企業がキャッシュを保有する理由は、ここまでは経済合理性で説明できますが、その範囲を超えて、業績のいい会社はキャッシュを保有しがちです。余剰キャッシュがある場合、配当か自社株買いによって株主に還元することができます。それをしないのは、経営者に対する株主のコントロールが相対的に弱いからです。

日本企業はなぜキャッシュを持ちたがるのか

日本企業は、とくにキャッシュを持ちたがる傾向があります。理由の1つとして、経済が成熟したことによって投資機会が少なくなっている状況が挙げられます。このような傾向は、海外の企業にも広がりつつあります。

あくまでも仮説ですが、日本企業がキャッシュを持ちたがるもう1つの理由は、日本企業が「株主主権モデル」ではなく、「従業員主権モデル」だからではないかと思います。株主の富を犠牲にして、従業員の富を拡大する傾向が強いということです。