ロシアに親近感を抱いた5つの理由

ロシアのそうした狙いは分かるとして、トランプ氏の側近たちがなぜ、ロシアの「国策」に乗って、ロシアと「共謀」(?)したのか。トランプ氏の指示の有無については、いずれ捜査で判明するでしょうが、側近たちがトランプ氏の胸の内を「忖度して動いた」ことは容易に想像できます。皆トランプ氏が親ロシアだったことをよく知っていたからです。

「ニューヨーク・タイムス」のディビッド・レオンハートというベテラン外交記者によれば、トランプ氏が親ロシアになった理由として、以下の5つが挙げられるようです。

1)現実外交
トランプ氏は、ロシアのクリミア侵攻についてオバマ政権とは異なる意見を持っていた。オバマ政権はロシアを非難したが、米国が手こずっているシリア内戦を終結させるには、親アサド路線をとっているロシアとの協力が不可欠。米国がシリアからの脱却するには、ロシアに近付く必要がある。

2)ビジネス
トランプ氏はロシアでホテル買収をしたり、主催するミスコンテストをモスクワで開催したりするなど、ロシア人脈を着々と築いている。ただ海外事業では米金融機関からの借り入れは困難で、ロシア政府とつながりを持つロシア系金融機関はありがたい存在だった。不正な取引も大目に見てもらえた。

3)選挙戦略
親ロ大統領の誕生を切望するプーチン大統領がヒラリー氏追い落としに積極的に動いているのであれば、ロシアの影響力はトランプ勝利に大きく貢献する可能性がある。

4)ロシアによる脅迫
ロシアが入手したトランプ氏および周辺の人物に関する極秘調査情報でトランプ氏らは脅迫されている。そのためロシア側の意向を受け入れざるを得ない状況にある。現にトランプ氏がモスクワ滞在中に売春行為をしていたとの疑惑が一部で報じられている。

5)「白人優越主義」という思想的同志関係
トランプ氏とその周辺にはプーチン大統領の取り巻きが考えている政治思想に共鳴する者が少なくない。トランプ氏の知恵袋、スティーブ・バノン前首席戦略官が信条としている「白人優越主義」は、プーチン大統領の懐刀、アレクサンドル・ドゥ―ギン氏の政治理念と極めて似ている、とされている。現にトランプ大統領の就任演説を聞いた元駐ロ米大使のマイケル・マクファウル氏は「ロシアのナショナリストの演説とそっくりだ」とコメントしている。

29年前、ゴルバチョフとは接触していた

ロシア贔屓のことを英語で「ロソフォリア」(Russophilia)と言っていますが、トランプ氏は、なにもロシア文化とか芸術に造詣が深いわけではないようです。おそらくプーチン大統領の「寡頭政治」に共鳴している部分が大きいように思えます。

そのトランプ氏ですが、1987年に訪米したミハイル・ゴルバチョフ大統領を歓迎してロナルド・レーガン大統領主催の晩さん会に招待されたり、翌88年にゴルバチョフ大統領が訪米した時にはトランプタワーに招待したり(実現はしなかったが)しています。

つまりプーチン氏よりずっと以前からロシア人最高指導者とは「お近づき」になりたいという願望があった。トランプ氏の現夫人、メラニアさんはスロベニア出身のモデルで、ロシア語が堪能だそうです。

トランプ氏は、プーチン大統領との関係について、2013年には「俺はプーチンと一回だけあったことがある」「プーチンはよく知っている」などと誇らしげに語っていました。しかしさすがに「ロシアゲート」疑惑が急浮上し始めたころからは「俺はプーチンなど知らない」などと言い出しています。

高濱 賛(たかはま・たとう)
在米ジャーナリスト、米パシフィック・リサーチ・インスティチュート所長
1941年生まれ。カリフォルニア大学バークレー校卒業後、読売新聞入社。ワシントン特派員、総理大臣官邸、外務省、防衛庁(現防衛省)各キャップ、政治部デスク、調査研究本部主任研究員を経て、母校ジャーナリズム大学院で「日米報道比較論」を教える。『中曽根外政論』(PHP研究所)、『アメリカの教科書が教える日本の戦争』(アスコム)など著書多数。
(写真=AP/アフロ)
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