海外渡航術は人それぞれの自己流があるだろう。しかし、豊富な経験を持つ人のノウハウを参考にすれば、その自己流にも磨きがかかる。会社員の傍ら航空ライターとしても活躍する北島幸司さんに、快適海外出張術をうかがった。
北島幸司
航空ライター
大阪府出身。幼いころからの航空機ファンで、乗り鉄ならぬ「乗りヒコ」として、空旅の楽しさを発信している。海外旅行情報サイト「Risvel」で連載コラム「空旅のススメ」や機内誌の執筆を手がけるほか、「あびあんうぃんぐ」の名前でブログも更新中。

POINT 1
出発前に現地のさまざまな情報を集める

渡航の前には乗る機種や空港、現地のことをいろいろ調べます。私の場合は、取材準備なのですが、海外出張の快適渡航術としても役に立つ部分は多いと思います。

例えばその国のルール。台湾では、地下鉄の車内での飲食が禁止されています。ペットボトルの飲料もだめです。アメリカやニュージーランドでは、戸外での飲酒は違法。シンガポールではガムを噛めません。法的にはガムを持ち込むこと自体が、罰則の対象です。

国ごとに、日本にはないルールや慣習があります。あらかじめ知っておいて損はないと思います。一方、知っておくと便利なこともあります。

フランクフルト国際空港の地下には、スーパーマーケットがあります。市民も利用するので、食品や日用品が安く買えます。現地では、日曜日は街の店のほとんどが休業するので、買い物に困ることがあります。日程が週末を挟むときは、空港のスーパーが便利です。また、現地で使うものをあれもこれも持って行こうとすると、荷物がかさばります。こまごました消耗品類は、現地で調達するようにすると、荷物をよりコンパクトにできます。

ちなみに、私は渡航先での買い物などの支払いにはクレジットカードを使っています。現金が必要な場合は、ATMで現地通貨を引き出せる国際キャッシュカードなら、両替の手間が省けるので便利ですね。

出張前の情報収集で、海外出張中のストレスは軽減されるでしょう。

POINT 2
座席選びは快適渡航には必須の要件

新しい機種ほど、フライトが快適なのは、言うまでもありません。最新鋭のボーイング787、エアバスA350は、カーボン素材を使っているので、強度が高く、腐食にも強い特性があります。室内の気圧や湿度を上げることができるので、機内は、ほぼ地上にいるのと同じ環境に整えられています。それだけ体調への影響が小さく、過ごしやすいわけです。

ビジネスクラスの座席も、この10年余りの間に、格段に進化しました。かつてはファーストクラスのアイテムだったフルフラットシートが増え、個室を設けた航空会社もあります。座席の配列には、従来の2座席並列タイプのほか、ヘリンボーンとスタッガードがあり、航空会社や機種によって異なります。

ヘリンボーンは、個別の座席を斜めに配したもので、両サイドの座席は窓からの景色を楽しむのに適しています。スタッガードは2座分の座席を前後互い違いに配したもので、隣の1座分がサイドテーブルになっています。

この2種の座席は、ともに個別感が高く、隣の人を気にすることもないので、長距離飛行をゆったりと過ごしたい方にお勧めです。ただ、2人での出張では、2座並列タイプのほうが都合のよい場合もあると思います。

昼便か夜便か、景色を楽しむかゆっくり休むか、同行者がいるかいないかなど、状況に応じて座席を選びましょう。座席のタイプや配列は、航空会社のホームページで閲覧できます。

エコノミークラスの場合は、同行者がいるなら3列座席の両側を予約すると中の席が空くことが多く、ゆとり空間が得られます。混んでいると無理ですが、1人のときは、搭乗終了後に隣が空いている席に移るのも快適飛行の手立てです。

POINT 3
渡航に役立つスマホアプリを使ってみよう

先に述べた座席のタイプや配列は、「シートグル(SeatGuru)」というアプリでチェックすることもできます。実は私は、海外渡航の際に、いろいろなスマホアプリを活用しています。いくつかご紹介しましょう。

「フライトレーダー24(Flightradar24)」は、リアルタイムで航空便の運航状況が見られるアプリです。便名を入力すると、現在の運航状況だけでなく、発着予定時刻なども表示されます。

私は海外の航空会社を使うことが多いのですが、海外の航空機の日本発は折り返し便になるので、場合によって出発が遅延することがあります。乗る便の一つ前、つまり日本に来る便を見ると、定時に運航しているかどうかをチェックできます。日本の航空機も、海外発は折り返し便になりますから、同様に役立てることができます。

「フライトアウェア(FlightAware)」や「飛常准」など同類のアプリがありますが、「飛常准」は、フライト情報の精度が高いので気に入っています。

ほかには、「マップスドットミー(MAPS.ME)」の現地地図をダウンロードしておくこともします。スマホにGPS機能があるので、WiFi環境がない場所でも、マップが使えるのです。これが意外に便利です。また、アマゾンプライムなどのビデオダウンロード、あるいは電子書籍などのアプリを利用して、自分の好きな作品を、機内で自在に楽しめるようにもしています。

美術館や博物館が好きな方なら、現地施設のアプリを使ってみるのも一興です。日本語の館内ガイドが利用できるものもあります。

POINT 4
朝便と夜便で異なる機内での過ごし方

海外渡航で逃れられないのは時差ぼけです。ヨーロッパやアジアなど、日本から西回りの飛行より、北米など東回りのほうがきつく出ることが科学的に証明されています。時差ぼけをできるだけ軽く抑えるためには、出発の段階から、現地の時間に合わせた生活リズムで飛行時間を過ごすことが大切です。

例えば、私が最近よく利用するヨーロッパ方面に向かう午前便の場合、到着は夜。現地で就寝時間を迎えるわけですから、機内で長く眠ってしまうと現地で眠れなくなり、時差ぼけを助長してしまいます。夜便は逆で、機内でしっかりと眠っておかないと、現地に朝着いたときには寝不足で、これも時差ぼけを長引かせてしまいます。

日本と目的地との時差にもよりますが、長距離飛行の場合は、夜到着ならば睡眠は控えめに、午前中到着ならば睡眠は深くと心得ておけばよいと思います。東南アジアなどの中距離便や、長距離でもオセアニアなど時差の少ない地域への渡航では、あまり時差ぼけを心配することはありません。

POINT 5
旅情を楽しむ気持ちのゆとりを

長距離飛行は、海外渡航の経験が豊富な人でも、けっこうつらいものです。長い移動時間をがまんと考えず、どう自分の楽しみに変えるか、その創意工夫が大切です。

海外出張は仕事が目的ですが、私は旅情を楽しむ心のゆとりを持ってほしいと思います。窓から見る景色も、日本を離れるときと戻ってくるときでは、違った感慨があるものです。「お勧めの機内食はどれ?」「これから行く街のおいしいレストランを教えてくれませんか?」といった客室乗務員とのちょっとした会話も空の旅の楽しみです。移動の時間をどう楽しむか、あれこれ想像していろいろな過ごし方を試してみてほしいと思います。

そして、現地で多少でも時間の余裕があれば、仕事では出合わないような体験にもトライしてほしい。例えば、フランクフルトやアムステルダムの空港には、空港内の駐機場や格納庫など、ふだんは入れない場所を訪ねるツアーがあります。空港をはじめ、旅先で自分が興味の持てそうな情報を集めておくと、意外なところで役に立ったり、新たな発見が海外出張に充実感をもたらしてくれたりもするものです。

(高橋盛男=取材・文 鶴田孝介=撮影)