人がよりよく生きるための組織に変える

グループウエア開発のサイボウズも、IT企業のご多分にもれず、社員の定着率の低さに悩んでいました。そこで大事なことに気づいたといいます。働くモチベーションは一人ひとり違う。だから100人、100通りの働き方ができる会社にしようと、個々のやる気や事情に合った働き方を選択できるようにしたのです。

でもそれだけでは、バラバラになりチームワークが発揮できない。そこで2011年、人事部の中に「感動課」を設けたそうです。社員を感動させるイベントを仕掛けたり、社員同士の交流の機会をつくったりして、チーム意識を高めることを目標にしました。こうしたつながりを強化し、ともに働く喜びを実感する機会や場をつくっていきました。その結果、00年代半ばには28%あった離職率は、13年には4%に下がったといいます。

では、社員同士が信頼し合えない、協力できない重苦しい職場を改革するにはどうしたらいいのか……。必要なのは、従来は当たり前とされていた「組織のための人材づくり」ではなく、「人のための組織づくり」に発想を180度転換するということです。組織のために人を働かせるのではなく、人がよりよく生きるための組織に変える。社会課題と向き合い、多様な知恵と思いを持ち寄り、自分も含めて周囲の人たち、社会全体がよりよく生きるために何ができるかを真剣に考え、行動できる集団に変えていく。

その意味では、やはり理念とビジョンは大切になってきます。「何を目的とし、何をする会社なのか」が明確でないと、社員の思いも見えてこず、未来への活力は生まれません。現在の職場の行き詰まりは、変革へのターニングポイント。そこを乗り切れないと会社は沈んでいきます。ぜひ、今を問い直し、未来を切り拓いてください。

高橋克徳●東京理科大学大学院イノベーション研究科教授
1966年生まれ。一橋大学大学院、慶應義塾大学大学院博士課程単位取得。野村総合研究所など経て、2007年、ジェイフィールの設立に参画し、現在はCo-CEO。人材育成・組織改革手法の開発やコンサルティングに取り組む。著書に『職場は感情で変わる』など。
 
(構成=岡村繁雄 撮影=小川 聡)
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