また、地方の過疎地と最先端テクノロジーには距離感があるように見えるが、自動運転車ではどうであろうか。過疎化した地方では高齢化も同時に進み、地域のお年寄りが自家用車で遠くまで買い物に出かけたり、病院へ通ったりするのは難しい。人口減少によって電車やバスなどの公共交通システムを維持することも、地方では困難になってきている。過疎地対策という意味でも、自治体が自動運転車に寄せる期待は大きい。実際に、石川県珠洲市は金沢大学と共同で、2015年2月より高齢過疎地域における次世代交通手段の開発も目的の1つとした、自動運転車の公道における実証実験を行っている。

自らのミッションの再定義を迫られる

一方、自動運転車によってもたらされる消費者メリットは、いくつも挙げられるだろう。まず、人間が運転をした場合に比べて格段に燃費が良くなる。意味のない車線変更、無駄な加速、急停止など燃費を悪化させる行為がなくなるからだ。

トンネル前で一人の運転手が速度を落とすことで起きる渋滞は、心理的要因が引き起こすものだが、自動運転車が一定程度まで普及すれば、これも解消されるであろう。ドライバーの負担は減り、運転に要していた時間を、より生産的な活動に使うことができるようになる可能性も高まる。

このように自動運転車は、従来の自動車産業の構造や収益構造をガラリと変え得るインパクトを持つと予想できる。例えば、事故が減ることによって板金や塗装などの修理需要も減り、代わってソフトウエアのアップデートなどによる収益が中心となって増えていくだろう。自動車業界の収益構造として、新車販売の利益はあまり大きくなく、アフターマーケットにおける修理、点検、サービスで利益をあげている。自動運転車の普及につれて、アフターマーケットにおけるニーズが大きく変化するとすれば、これに対応できないディーラーやカー用品販売、修理工場などは脱落せざるをえない。従来の自動車流通も大きな変化を迫られる厳しい時代の到来と言える。

自動車の産業ピラミッドの頂点にある完成車メーカーも、自身のミッションを再定義する必要に迫られるだろう。自動運転車やロボタクシー、カーシェア、ライドシェアなどの新たなサービスをどう位置づけていくか、という戦略が当然、必要になってくる。あくまでも完成車を市場に供給するメーカーとして生き残るのか、それともサービス産業へと大きく舵を切り、これを機に総合的なモビリティサービスを展開していく企業となるか、各社の総合的な実力が試されてくる。

ただし、変革はすべてのプレイヤーに平等にやってくる。自動運転化を巡る動きの中で、エヌビディアやボッシュなど、これまでは自動車部品の一サプライヤーにすぎなかった企業が存在感を増している。完成車メーカーとしては、これまで以上に「どこと組むか」が重要になってきていると言えるだろう。