100万部超えは、テレビに取り上げられないと難しい

このように最初は不評だったロジャー。ところが発売1週間後、フジテレビの情報番組『ノンストップ』で子供が10分で寝る絵本と紹介されて話題になった。すると、すぐにアマゾンの書籍ランキングで総合1位になり、他のテレビ番組からも問い合わせが殺到。いろいろな番組で取り上げられ、爆発的に売れていった。

こう書くと、一連のテレビ露出は偶然だったと思うかもしれない。しかし矢島氏は、メディアに取り上げてもらえるように準備をしていた。

「実は、企画段階から100万部を目標にしていました。でも、ミリオンセラーを作るためには、テレビで取り上げてもらわないと難しいんですよ。20万部ぐらいまでは自力で売れるかもしれないけれど、それから先はテレビの力が必要なんです。『じゃあ、どうやったらテレビが取り上げてくれる?』と考えぬいた結果、“面白い絵”が必要なのではないかと思い至りました」

絵本を読むだけで子供が寝てしまうというのは、テレビが取り上げやすい『面白い絵』になる。そこで事前にモニターを募って、お母さんたちにロジャーを読んでもらい、子供が寝てしまう動画を撮影。それを公式の特設ページに掲載したのだ。

「動画であれば、子供がどんどん眠くなる様子が伝わるし、テレビ局側も番組を企画する際にイメージしやすいですから。また、もし番組の制作時間がなければ、そのまま動画を使ってもらえるようにという狙いもありました」

実際に放送された番組では、お母さんがお子さんを寝かしつける映像だけでなく、保育園で読み聞かせるだけで本当に子供たちが寝るかどうかという実験も行われた。さらにアナウンサーやお笑い芸人が、スタジオでロジャーを朗読するという企画も相次いだ。2016年の年末には、NHKの番組で女優のんさんがロジャーを朗読し、「久しぶりのテレビ出演」とあわせて話題になった。

「メディアに見つけてもらえるように、事前に土壌を作っておいたことが功を奏しました。テレビで取り上げてもらわなかったら、ここまで売れていなかったと思います」

“インスタ映え”で、若いママたちにクチコミが広がった

ロジャーの露出はマスメディアだけではない。インターネット上でのクチコミも、売り上げをさらに加速させた。きっかけは、若いママに支持されるタレントの木下優樹菜さんが、ロジャーの絵本を子どもに読み聞かせる様子をインスタグラムに投稿したことが始まりだった。

すると、これを見た若いママたちが子供の寝顔とロジャーの絵本を一緒に撮影して、「この絵本を読んだらすぐに寝たよ」などのコメントを添えて、インスタグラムに投稿するようになり、クチコミが広がっていった。「子どもの寝顔ってかわいいから見せたいんですよね。今、『おやすみロジャー』というハッシュタグで検索すると、1万件以上も投稿されています」と矢島氏は話す。

(左)インスタグラムには現在、「#おやすみロジャー」とハッシュタグを付けた投稿が1万1204件も上がっている。(右)タレントの木下優樹菜さんが、自分が子どもの寝かしつけをする写真をインスタグラムに投稿したことから口コミが広がった。

確かに、子供の寝顔はフォトジェニックで「インスタ映え」する。多くのママたちが投稿したくなる気持ちも分かる。「それに若いママ同士って、インスタグラム上でコミュニケーションをとるんですよ。そのコメントのやりとりが、アマゾンのレビューと違ってあたたかいんです」

アマゾンではどうしても批判的なレビューがつきやすい。しかし、インスタグラムは友達同士のコミュニケーションの場。「いいね。私もその絵本を試してみようかな」といったポジティブなコメントがつきやすいので、好意的なクチコミが広がりやすかった、と矢島氏は分析する。

こうして発売当初は、テレビやSNSでロジャーを知ったママたちが絵本を購入して話題になり、やがてビジネスマンが読む媒体でも取り上げられるようになり、男性の購入者も増えていった。さらに新聞でも取り上げられるようになると、「孫に何かプレゼントしたい」と思っているおじいちゃん・おばあちゃんたちが買うようになった。さまざまなメディアで紹介されたことにより、購入する人たちの層も広がっていったのだ。