すぐ上司に、組織づくりの責任者になりたいと願い出て、部署内で異動させてもらう。読む本もそれまでの美容、教育の本からマネジメント、組織づくり、マーケティングの本へと変わっていった。

次の課長昇格試験は難なく通った。同時に埼玉エリアのマネジャーという大役に抜てきされ、これまでの上司たちが部下についた。

訪販斜陽の時代に103%達成!

当時、埼玉エリアの業績は全国の中でワースト5。かつて怒らせた名古屋の販社社長が本社の本部長になっていて、その本部長から毎回、不振エリアのマネジャーとして呼び出されるのだった。「訪販斜陽」の時代で、どのエリアも目標の達成率は95%くらい。

その中で埼玉エリアは徐々にランクを上げ、目標の97%を達成して8位になるが、それでも本部長から「生ぬるい!」と一喝される。「4カ月待ったが全然期待に応えてない。優秀な人材がいて経済的にも恵まれたエリアを任せているんだ」

同時期、グループトップからも「勝てないのを環境のせいにしているならガッカリです」と言われて火が付き、「今月103%やります」と宣言してしまった。

翌日、部下たちに目標を告げると「どうして103? 100やればいいじゃない」と反発された。「及ちゃん、どこ見て仕事してるの? 自分の手柄がそんなに欲しいの?」

「違う。埼玉が勝てることを私は見せたいのだと言いましたが、ギスギスした空気が流れました」

それから毎週、本部長にメールで進捗(しんちょく)状況を報告した。返事はない。今まで元上司だからと遠慮していた部下たちにもダメ出しをした。そうして103%を達成すると、今まで反抗していた部下たちも「やった!」と喜んだ。

本部長から「仕事のやり方を覚えたな」とひと言メールが入る。グループトップからも「それがポテンシャルというものなんだよ」と言われた。

「私、愚かなんで、今でも『それはちょっと無理です』と言ってしまうことがあるんです(笑)。でも『及川には優秀な部下を与えているんだ。リーダーが無理と決めてしまったら、部下の可能性をつぶすことになる。そんな上司にはなるな』と言われます」

43歳で執行役員、45歳で取締役に就任。「時間がかかりすぎだ! そんなぶれる女とは思っていなかった」などと、トップからの愛のムチは強まるばかり。よい指導者に恵まれ、よい部下に恵まれ、縁の下の力持ちは組織を引っ張る存在として輝く。

▼役員の素顔に迫るQ&A

Q. 好きなことば
当たって砕けて、また当たる

Q. ストレス発散
ショッピング

Q. 趣味
登山

Q. 愛読書
浅田次郎、伊坂幸太郎、三浦しをん、桐野夏生

撮影=澁谷高晴