ペッパーは「プラットフォーム」を立ち上げた

G-Dロジックが、企業が一方的に価値をつくり、顧客に対価を払ってもらって完結するのに対して、S-Dロジックは、顧客と常時つながりながら、顧客の行動も価値づくりに貢献するという価値共創の考え方です。これを複数の顧客サイドに展開すると、プラットフォーム型のビジネスになります。

例えばAirbnbの場合、貸す側と借りる側の2サイドで始めたビジネスに、保険会社や地元レストランなどのローカルビジネス、さらに観光産業なども巻き込むことで「マルチサイドプラットフォーム」に発展しつつあります。

ペッパーも、単にモノを売るというG-Dロジックではなく、S-Dロジックで捉えるべきでしょう。ペッパーの価格が安いのは、ペッパーの販売から利益を得るよりも、広く普及させることを重視しているからです。ペッパーはクラウドAIのため、普及台数が増えてコミュニケーション機会が増えるほど、様々な学習機会を通じて集合知が集積されます。その結果、今後さまざまな顧客サイドを巻き込んだビジネスが立ち上がる可能性があります。

1本3000円のストローを売る方法論

最後に、S-Dロジックの事例として、スイスのベスターガード・フランセン社の「ライフストロー」という商品を紹介します。

汚れた水に指して吸うと、フィルターによって99.9999%のバクテリアと有害物質が除去できる、携帯型の浄水器です。約3000円の商品で、アマゾンでも購入できます。この商品のビジネスをG-Dロジックで考えると、この商品に3000円の価値を認めてくれる人に向けて販売することになります。そうすると、顧客は登山やキャンプをする人や、地方自治体の災害対策本部などに限られ、ニッチ商品にしかなりません。

では、S-Dロジックで捉えるとどうなるでしょうか。この商品を必要とする人は、実は地球上に10億人も存在します。きれいな水が確保できない途上国の人々です。彼らに提供できれば、ビジネス規模は拡大します。しかし、彼らには3000円を払うことはできません。そこでベスターガード社は、ケニアの人々に、この商品を無料で配る活動を始めました。

彼らは、近くの川や水たまりなどから汚い水を汲んできて、付近の木を切って燃やし、煮沸消毒して生活用水として使っています。ライフストローがあれば、木を切って燃やさずに済み、二酸化炭素排出量を削減できます。そのことを国連やEUに提案し、ライフストローを無償提供する代わりに二酸化炭素排出権(カーボンオフセット)を譲り受け、一般企業に販売する仕組みを考えたのです。

企業は、ベスターガード社の排出権を購入することで、このプロジェクトを支援していることをアピールすることができます。ケニアの人々、国連やEU、一般企業と価値を共創することにより、同社はライフストローのビジネス規模を拡大することに成功しました。

このように、さまざまな顧客を巻き込んで使用価値や文脈価値を共創するS-Dロジックの「レンズ」をかけてみると、視界が広く開けるのではないかと思います。

(構成=横田忠英 写真=時事通信フォト)
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