「都内最強」と呼ばれるどら焼きがある。台東区上野にある和菓子店「うさぎや」のどら焼きは、そこでしか買えない。賞味期限は翌日まで。「手みやげ」としては短いが、だからこそ「今日、足を運んで買ってきたんだな」と伝わる。そんな絶品の秘密を店主に聞いた――。
*本稿はプレジデント社の 経営者向けサイト「社長の参謀ブログ」の記事です。
生地の中にスジのような空洞が並ぶ。これが「片面焼き」の効果。1個205円(税込)。

値段が手ごろで、かしこまらない「ほどよさ」

差し上げる相手との間柄や目的によって、手みやげの選び方は悩ましい。しかし、特段の事情がないのであれば、手みやげには「どら焼き」をおすすめしたい。なぜなら「ちょうどよい」から。かしこまりすぎず、値段も手ごろなため、相手に余計な気を遣わせることがない。

都内で、どら焼きの名店といえば、その筆頭は「うさぎや」だ。創業は大正2年。昭和の初め、2代目からどら焼きの販売を始め、今では売り上げの9割を占めるという。メディアで、「カステラ風の生地に小豆餡をはさんだどら焼きの元祖」と紹介されたこともあったが、主人の谷口拓也さんによれば、それは違うそうだ。

「うちがどら焼きを作り始めたころは、ほかにも何軒か同じような姿のどら焼きを売っている店が東京にあったようです。そもそも、気軽に食べられるおやつですから、元祖がどこかなんてどうでもいいんですよ」と谷口さんは笑いながら話す。

 ではなぜ、うさぎやがどら焼きの名店として知られるようになったのだろうか。

気泡、歯切れ、粒揃い、舌触り……おいしさの秘密

「うさぎや」店主の谷口拓也さん。

「どら焼きの生地は、一般的には両面焼きです。すると上下から気泡が入りますのでこのようにはならない。うちは上火の片面焼き。だから片側から気泡が入って生地を貫通するわけです」と谷口さんが明かしてくれた。うさぎやのどら焼きの特徴を説明しよう。どら焼きの断面を撮った写真を見てもらいたい。生地の中にいくつものスジのような空洞があるのがおわかりだろうか。ホットケーキを焼いた経験がある人ならわかると思うが、表面がフツフツと沸いてできる気泡のあとだ。おもしろいのが、この気泡が生地の表から裏までをスジ状に貫通している点だ。

この気泡が、生地の歯切れを軽快にする。さぞや熟練の職人技で……と思いきや、「老舗の菓子というと、みなさん職人仕事を期待されるんですが、うちは コンベヤー式の機械焼きなんですよ」と意外なひと言。理由を聞けば「そのほうがおいしいと思うから」と明快だ。

一方、あんこに関しては徹底して人の手が行き届いている。まずは小豆の仕入れの段階で選別をして大きさや品質をそろえ、吸水しやすいよう豆を磨いておく。店ではそれを水に浸し、その段階でも大きさのそろってないものや水を吸わないB品の豆があればハンドピックで取り除いていく。扱う小豆の量を思えば、かなり根気のいる作業である。まさに粒ぞろいの小豆だけで、餡をつくるのである。

谷口さんの調べでは「あんこが苦手な人は、粒餡の豆の舌触りが苦手」なことが多いそうだ。「ひどいあんこだと豆の皮が口の中に残るものもありますから。粒をそろえるのは基本中の基本で手を抜けませんよ。粒がそろっているからこそ煮えムラがなく、豆の皮まで均一にやわらかく炊けるのです」と言葉を続けた。

再び写真を見てもらいたい。粒餡が、まるでお汁粉のようにとろとろしているのが伝わるだろうか。軽快な生地の歯切れとゆるめに炊いた餡の一体感が醸すおいしさは、うさぎやのどら焼きでしか味わえない絶妙な加減なのだ。