サウンドバイトを繰り返すわけ

そして、特にビジネスパーソンにマスターしてほしいのが4カ条目の「サウンドバイトで心に噛みつく」だ。

サウンドバイトは、刺激的で歯切れがよい短いフレーズのこと。橋下さんの「大阪都構想」「すさまじい権力闘争」「大阪市役所をぶっ壊す」などがそれで、橋下さんは何度も繰り返し叫んだ。所詮、人の記憶にはワンフレーズくらいしか残らない。だから、単純なフレーズを繰り返し聴かせて、聴衆の脳裏に刻み込むのだ。

ビジネスの世界におけるサウンドバイトの達人といえば、スティーブ・ジョブズ氏だろう。代表例が「1000曲をポケットに」という有名なiPodのキャッチフレーズだ。聞き手の頭の中で“化学反応”が起きる言葉の組み合わせ、具体的な数字の活用、さらに巧みな比喩という、三拍子揃った秀逸なサウンドバイトといえる。

サウンドバイトの使い手
スティーブ・ジョブズアップル共同設立者

「1000曲をポケットに

(共同通信イメージズ=写真)

 

また、数字の活用という点においては、ソフトバンクグループの孫正義社長も巧者で、「豆腐屋のように、1丁(兆)、2丁(兆)と売り上げを数えるビジネスをやる」という創業時のコメントなどが有名だ。

数字使いの巧者
孫正義ソフトバンクグループ社長

「豆腐屋のように1丁(兆)、2丁(兆)と売り上げを数えるビジネスをやる」

(時事通信フォト=写真)

 

ちなみにネットニュースの「ヤフーニューストピックス」には、「全角相当13文字程度」というタイトルの制限がある。しかし、その簡潔な表現で何十万、何百万ものページビューを稼いでいるわけだ。どのようにしたら刺激的で歯切れのいいフレーズがつくれるのかを勉強するのに、うってつけの素材といえるだろう。

続く5カ条目が「似た構文をリフレインしていく」である。「(対立候補は)すべての権限とお金を握り続けたい。大阪市役所を守りたい。大阪市の職員組合を守りたい……」といったように、橋下さんの演説は耳当たりがとてもいいのが特徴なのだが、語尾に注目してほしい。すべて「~たい」で終わっていることがわかる。このように語尾が似た言葉をつなげるレトリックを、結句反復(エピフォーラ)という。実は似た構文を繰り返していくと、話す言葉にリズムが生まれ、耳に心地よく入ってくるものなのだ。

結句反復の逆で、文頭の語句を合わせる修辞法を首句反復(アナフォーラ)という。米国のバラク・オバマ大統領は、無名の上院議員だった04年の民主党全国大会の演説で、「希望」という言葉で始まるフレーズを繰り返し、リズムのある演説を組み立てて、一躍有名な政治家の仲間入りを果たした。

また、「対句法」という表現技法もある。意味が関連した語句を並べることで、文章に味わいを持たせる方法で、最近の例で私が特に感心したのは、リオデジャネイロ五輪での白井健三選手だった。体操男子団体総合で優勝し、記者会見でそのときの感想を求められて、「人生で1番心臓に悪い日でしたが、1番幸せな日でした」と当意即妙のコメントをしたのだが、見事な対句になっている。

若き「対句」使い
白井健三金メダリスト

「人生で1番心臓に悪い日でしたが、1番幸せな日でした」

(時事通信フォト=写真)