経済成長はさまざまな社会矛盾を吸収していきました。成長は格差を拡大させましたが、韓国国民は飢えに苦しむような極貧の状況から解放され、ようやく腹を満たせるようになりました。そのような目の前の民衆の満足が、独占資本たる財閥の肥大化、強権的な軍事政権の独裁化という深刻な社会病理の進行を見えなくさせていたのです。

韓国で、朴正熙、全斗煥、盧泰愚の三代の大統領に渡る軍事政権(1963~93年)が30年続きますが、こうした強権支配が長く続いた理由は何でしょうか。それは、財閥と軍事政権との癒着にあります。財閥との癒着によって、政権や与党は豊富な資金を獲得していた一方で、金泳三や金大中ら民主化を求める野党勢力は常に資金に欠乏していました。

また、財閥の各グループはその下部組織である関連会社も含めると、膨大な数の従業員を擁しており、選挙の際には、政権側の強力な集票組織となったのです。軍事政権が安泰であれば、従業員たちも安泰でした。「軍事政権時代に国民は苦しめられた」という一般的な論評は物事の一面に過ぎず、軍事政権によって、利益を享受した韓国国民も少なからずいたのです。

軍事政権の負の遺産

朴正熙が築き上げた財界との癒着構造は、その後の軍事政権にも一貫して受け継がれていきました。朴正熙の後継者の全斗煥大統領は財閥に、自らの私的な財団である「日海(イルヘ)財団」への献金を求めました。進んで多額の献金をした財閥は多くの特権を与えられ、献金を渋った財閥は制裁を加えられました。

全斗煥は自らの意向に従わなかった「国際グループ」を解体しています。「国際グループ」は釜山に本拠を置く企業でした。この企業は1985年の国会議員選挙で、与党を支援せず、与党候補者が釜山地域で金泳三派に大敗します。全斗煥は怒り、選挙後すぐに「国際グループ」への融資を銀行にストップさせて、これを解体させました。

「10大財閥」が韓国経済の大半を担う現在の状況は、「漢江の奇跡」以来の軍事政権が残した負の遺産とも言えます。朴槿恵元大統領を辞任に追い込んだ「崔順実(チェ・スンシル)事件」では、崔氏が財閥の資金を政権に渡す窓口になっていたと報道されています。

冒頭に挙げた過酷な受験競争もさることながら、韓国の政治・経済の健全な発展のために、財閥が抱える前時代的な組織体制とそれを取り巻く社会制度の旧弊を抜本的に見直す時期が今、やって来ているように思います。

宇山卓栄(うやま・たくえい)
著作家。1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。おもな著書に、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『経済を読み解くための宗教史』(KADOKAWA)、『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)、『“しくじり”から学ぶ世界史』 (三笠書房) などがある。
(写真=AFLO)
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