出世や地位よりも「自分が心からしたいことをしたい」

私のアドバイスを受けて、Bさんはエクセルに日記をつけるようになりました。毎日の小さな楽しかったこと、ワクワクしたことを、行動したことを言語化していきます。持ち前の真面目さと粘り強さで、それを3カ月、半年と続けていくと、Bさんの言動が徐々に変わりました。1年半を過ぎたところで、こう私に言ったのです。

「福祉の分野で貢献したいんです」

幸いなことにBさんの勤め先は、貿易業だけでなく福祉事業を手がけていました。そこで、リスクの少ない“組織内転職”のような形で、福祉分野に移ることになりました。マネージャーという「肩書」はなくなりましたが、Bさんにとって、それは大きな問題ではありませんでした。

50代からの新分野へのチャレンジは簡単ではありません。これから色々な壁にもぶち当たるでしょう。しかし、やっと見つけた「人生を投入できる仕事」です。Bさんが簡単にへこたれることはないでしょう。

もし、かつてのまま貿易業務の管理職として仕事をこなしていたら……。その人生は安泰だったかもしれませんが、惰性に流されたことで、「今のままの人生でいいのか?」という自らの心の叫びが絶えず耳に届いていたことでしょう。

▼魂の声を聞き、行動するということ

「人生における生きがい、働きがいを見つけたい!」

本人が100%腹落ちする生きがい、働きがいとは何か? ビジネスパーソンを常に悩ませる命題ですが、人生の折り返し地点を越えた年代になると、より重いテーマとしてのしかかってきます。

「答え」はその人の心のなかにしか存在しません。これだという答えをすぐさま発見することは極めて困難です。だから試行錯誤の末、考えることさえ諦めてしまう人が多いのも事実です。

東京からは遠く富士山を眺めることができます。しかし、それには条件があります。雲と霧がかかっていれば難しいですが、晴天(特に、雲や靄のない透明度の高い冬の空気)であればくっきりと眺めることができます。

「人生における生きがい、働きがいは何か?」の答えも、この現象に似ています。心に存在しているものは見えにくい。様々な雑念や感情で靄がかかっていると、その姿を認識するのは至難の業です。靄を取り除くためには、行動が必要です。小さなアクションでいいから行動する。そして、その都度、心と深く対話する。この地道な習慣を経て始めて、魂のメッセージを受け取ることができるのです。一朝一夕で見つけられる人はいません。

自分と対峙する作業はしんどいです。だから逃げる人も少なくありませんが、やってみる価値はあります。相談に来られた多くの方が、新しい人生を切り拓いていく姿を目の当たりにしてきた私は、自信を持ってそう言い切れます。

今回の2人のケースも、半年から2年ほど悶々とする期間を経て、道なき道を手探りで進みはじめ、小さな行動を積み重ねることで、「答え」にたどりつきました。ぜひ自身の心と深く対話する習慣を始めてみてください。あなたの心にかかった靄が取り除かれれば、「自分が死ぬまでに成し遂げたいこと」「人生で一番大切にしたいこと」がありありと見えてくるはずです。

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