それでも悲観論はほとんど聞かれず

1線都市とその他の都市では動きは異なる。それが中国不動産市場における1つの特徴でもある。むしろ中国では、住宅市場の2極化が進み、人口流入が続く1線都市だけは崩壊しないという「2極化論」が支持されている。

ちなみに1線都市の上海だが、2015、16年とバブル状態が続いたが、今は打って変わって取引は低迷している。「住宅価格が2割下落」とも伝えられている。だが、これを「バブル崩壊」に結び付ける悲観論はほとんど聞かれない。

「北京、上海は大丈夫」――そんな強気な不動産神話が存在するのは、それが「人口流入が続く「1線都市」だと言うことと、「市況低迷はいつものパターン」だと見抜いているからだ。

仮に相続税など各種課税を強化すれば、バブルは崩壊し、市場は正常化に向かうだろう。だが、恩恵を受けている側に共産党員が多く含まれているため、自分の首を絞めるような政策は出さない、と考えられている。この構造が中国の不動産神話を支えていると言える。

また、最近は一帯一路構想など、中国が世界のイニシアティブを握るという将来像も見えてきた。中国全体が再び自信をつけ始めている点は見逃せない。

しかし、不動産市場が崩壊するかどうかは、あくまで投資家目線の話だ。果たして、住民にとっては悲願の住宅や住環境が本当に心地よいと言えるのか。実は問題は山積しているのである。上海市の西部に在住する地元市民はこう訴えている。

「パーキンソン病の夫がいるというのに、この住宅にはエレベーターがない。すぐにでも住み替えたいが価格に見合う住宅は条件の悪い郊外にしかない」

他方、上海では不動産価格があまりに上昇したため、商業では利益がほとんど出せなくなっている。実店舗を閉店させ、仮想空間での商売に逃避するのもその現れだ。

上海の小売業事業者はこう語っている。

「この不動産価格では倉庫も借りられないし、店舗も出せない。上海は人が住み、健全な商業を営める土地ではない」

ここ数年、中国人が日本での住宅購入に食指を動かしているは興味深い。投資もあるだろうが、移住目的もある。値上がりがほとんど期待できない日本の住宅に関心を向けるのは、そこが住みよいと思うからだ。崩壊しない中国の不動産バブルは、国民からも安住の地を奪ってしまったという意味で罪深い。

姫田小夏(ひめだ・こなつ)
フリージャーナリスト。アジア・ビズ・フォーラム主宰。1997年から上海、日本語情報誌を創刊し、日本企業の対中ビジネス動向や中国の不動産事情を発信。2008年夏、同誌編集長を退任後、語学留学を経て上海財経大学公共経済管理学院に入学、修士課程(専攻は土地資源管理)を修了。14年以降は東京を拠点にインバウンドを追う。著書に『中国で勝てる中小企業の人材戦略』(テン・ブックス)、『インバウンドの罠』(時事通信出版局)ほか。
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