東京・渋谷の国道246号線近くのとあるビル。商品の価格比較サイトなどを運営するECナビを初めて訪れた人は場所を間違えたかと、一瞬、不安な気持ちに駆られるはずである。エレベーターを降り、指示された方向に歩くと、SF映画のセットを思わせるオブジェが現れるからだ。実はそこはAJITO(アジト)と呼ばれる同社の社内バー(写真参照)。近未来の海賊船がモチーフで、なかにはシャンデリアが下がり、テーブルやソファセットが置かれている。

ECナビの社内バー(AJITO)。フィスビルの中にバーが設置され、無機質なフロアが変身。来訪者へのアピール効果も大きい。

ECナビの社内バー(AJITO)。フィスビルの中にバーが設置され、無機質なフロアが変身。来訪者へのアピール効果も大きい。

「自由でフラットというイメージがある海賊をモチーフにしました」と、広報室の江頭令子氏が開設のいきさつを語る。スペースとしてはいつでも利用が可能だが、アルコールは午後6時半から解禁。缶ビール、缶チューハイなどが冷蔵庫に置かれ、料金無料の飲み放題だ。

バー需要だけではない。日常の打ち合わせ、新卒相手の会社説明会、クリスマスやハロウィーンパーティといった社内行事、幹部クラスの朝食会の会場としても使われている。「初期投資が数千万円で、毎月のコストは十数万円。心配していたようなトラブルも皆無で、費用対効果を考えたら安い」と江頭氏が話す。

こうした給料以外の手段で、企業が社員に報いる施策は福利厚生といわれる。英語では、そのものずばりでフリンジベネフィット(周辺の報酬)という。福利厚生の中身は法定福利と法定外福利にわかれる。前者は年金、健康・介護・労災・雇用保険といった、国の社会保険制度の一端を企業が担うことを義務づけられた部分であり、後者は住宅、保養所などの箱物から健康増進や自己啓発を目的にした各種施策まで、各企業が独自の考えで展開するものだ。

日本経団連が毎年、実施している「福利厚生費調査」によれば、2007年度の従業員1人1カ月あたりの費用(法定福利費+法定外福利費)は10万3934円。対前年度比マイナス0.8%と9年ぶりに減少したが、額自体は結構大きい。そのうち73%と、4分の3近くを法定福利費が占める。歴史を遡ると、調査開始時の1955年の割合は45%で、むしろ法定外福利費のほうが多かった。法定福利費の割合が急増している背景は少子高齢化である。多数の現役世代が少数の高齢世代を支えていた従来の図式が崩壊しつつあるのだ。