【水野】そのコンテクストに説得力があればあるほど、価格も上がるわけですね。有用性ではなく物語性が重視されるということでしょうか。物語性が確立していれば、価値が上がり、価格も上がる。

【山本】イメージや物語は、どんどん膨らんで大きくなります。それは人間がもつ想像力や創造性に関係があるからでしょう。

その一方で、現実的な有用性はつねに有限です。たとえばトイレットペーパーは生活には不可欠ですが、その有用性がどんどん膨れ上がっていくことはありません。物語や想像力というのは受け手によって大きく変わるし、現実ではなくバーチャルなものであるがゆえ、有用性の限定を受けずにすむ。コンテクストによる価値創造が行なわれつづけられるほど、価格は確実に上がっていくといえるでしょう。

【水野】コンテクストによる価値創造を理論化した経済学とは、どのようなものになるのか。本来、それは経済学者がやらねばならない仕事かもしれませんが……。そう説明されると1枚の絵画が3億ドルという価格に跳ね上がる理由もわかる気がします。

水野和夫(みずの・かずお)
法政大学法学部教授(現代日本経済論)。博士(経済学)。1953年、愛知県生まれ。埼玉大学大学院経済学科研究科博士課程修了。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)などを歴任。主な著書に『資本主義の終焉と歴史の危機』、『終わりなき危機』など。近著に『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』がある。
山本豊津(やまもと・ほず)
東京画廊代表取締役社長。全国美術商連合会常務理事。1948年東京都生まれ。71年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。元大蔵大臣村山達雄秘書。2014年より4年連続でアート・バーゼル(香港)、15年にアート・バーゼル(スイス)へ出展。アートフェア東京のコミッティー、全銀座会の催事委員を務め、多くのプロジェクトを手がける。
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