すずらん通りに面するギンザコマツ西館の屋上には天空神社がある。同社は、奈良県桜井市の大神(おおみわ)神社を勧請したものだ。大神神社の特徴は、いわゆる本殿が存在しないことだ。拝殿の奥には特徴的な三ツ鳥居があり、その先には三輪山が控えている。山そのものを御神体として崇拝する古い形の神道が残されているのだ。

ギンザコマツ屋上の天空神社(画像/著者提供)

なぜ、奈良の神が銀座に招かれたのか。きっかけは小松ストアーの社長が、ある展示会で、大神神社の砂を使って成功祈願するアーティストを見かけたことだ。当時、周囲や自身に不幸が続いたこともあり、社長は大神神社に強い関心を持ち、通うようになる。その後まずは社長室に勧請され、2010年のビルのリニューアル時、屋上庭園に天空神社として遷されたのだ。コム・デ・ギャルソンやパリ発のベーカリーカフェが入るビルの屋上に、独特の三ツ鳥居を備えた古い神が鎮まる様子は極端に対照的で面白い。

人々が神を選ぶ、近代と宗教の形

路面であれ屋内であれ、銀座では、神社のある空間を店舗や施設として運営すれば、途方もない収益をあげられる。4丁目の山野楽器本店は、今年3月の公示地価では1平方メートルあたり5050万円と過去最高を記録し、11年連続で全国1位となった。さらに、2~4位も銀座が占めている。経済的に見れば、銀座の神社は、どんなに小さいものであれ、膨大なコストを費やして祀られているのである。

銀座の神々の活況は、神社に起きている根本的な変化を示唆している。これまで神社を支えてきたのは、氏子と呼ばれる地域に定住する人々だ。彼らにとって、神社は祭神やご利益で選ぶものではなく、その地域に生まれ落ちた時から帰属するものだ。神社は単なる信仰対象ではなく、地域共同体の象徴的な核だったのである。しかし、少子化・高齢化・都市化は、こうした地域のあり方を根本から掘り崩しつつある。

その点、銀座はそもそも人が住まない街であり、地縁・血縁に基づく共同体生活の痕跡をほとんど持たない。商売に携わる人々が自らの嗜好や必要に合わせて神々を呼び寄せる。そして、街を通り過ぎる大量の人々が、やはり自分に合わせて神々を選び取って祈る。銀座では、近代と宗教は対立していないだけでなく、むしろ新たな共存の形を見せつつあるのだ。

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