役所や観光協会だけでは復活できない~オール熱海体制

取材をしていくうちに気づいたことのひとつが、汗をかきながら現場で奮闘する「アラフィフ」の男性の姿が目立つことだ。例えば花火大会は、熱海温泉ホテル旅館組合に所属する旅館の主人たちが音頭を取り(40~50代男性が多い)、組合の青年部の部隊が総出でおそろいのTシャツを着て会場運営に当たる。お祭り気分を上げる露店も、地元の飲食店が協力して出店している。

「他の観光名所には申し訳ないぐらい、熱海は資源的に恵まれていますよ」と笑顔いっぱいに街自慢するのは熱海市観光協会会長で、駅前で魚屋を営む中島幹雄氏。「細かい種まきから実際の運営まで自分たちの手で仕掛け、年4回の市長ミーティングではそれぞれの団体が情報やアイデアを共有する場を設けています。お互い足の引っ張り合いにならずに、4つの団体がタッグを組んでうまくやっている自治体は、全国でもそうそうないはず。それが復活の道につながっていると思います」。4つの団体とは、市と観光協会、商工会議所、そして旅館組合のこと。この4団体が手を組むオール熱海体制こそ、V字回復の理由だというのだ。

行政の立場から熱海全体のプロモーションを仕切っている熱海市役所観光経済課長の立見修司氏も、現場主義のオール熱海体制が回復のカギであることを強調する。「イチから出直さないと復活しないという共通認識のもと、お互いに近しい気持ちで話を積み重ねています。ひとりでも多くの方に来ていただき、熱海のファンになってもらいたいという気持ちを持って一致団結しています」。たとえ普段は商売敵でも、「これは熱海のためだ」という共通認識を持って、オール熱海で団結しているのだ。

次のターゲットは、外国人ツーリスト

市の取り組みとしては、テレビ番組への熱海の露出を増やすため、番組ロケサポートに特化した「ADさん、いらっしゃい」や、ブランドプロモーションキャンペーン「意外と熱海」や事業応援サポート「A-biz」など、熱海へ人を呼ぶための新しい手を次々に打ち出している。

9月2日にはアロハフェスティバルの会場で齋藤栄市長が、観光地としては世界初の「熱海ダイバーシティ宣言」を行った。旅館組合の目黒俊男理事長とバリアフリー活動に奔走する「車椅子ウォーカー・ウィーログ」の代表である織田友理子さんもその場に同席した。これは2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた市の心構えを宣言したものという。

「本来、宣言するまでのことでもないのですが、熱海市の人口はわずか3万7000人程度。年間300万人もの方が宿泊され、日帰り客を含めれば、その数はさらに上をいきます。いろいろな方が集まって熱海市が成り立っているのです。だからこそ、多様性が必要なのです。海外からいらした方にも、障がいをお持ちの方にも、あらゆる方々を迎え入れる優しい街づくりを目指し、できることからやっていこう。そういう宣言です」(立見氏)

外国人の宿泊数を見ると、確かに隣の箱根は11%、富士五湖は25%あるのに対し、熱海はわずか1.1%にとどまる。課題が明確であるため、あらためてダイバーシティ宣言を行い、外国人客の誘致とユニバーサル対応の機運を高めることを狙う。

年間宿泊人数は300万に回復したが、熱海市はそれをさらに伸ばして、大きなV字カーブを描くシナリオを描いている。「東京観光の外国人をターゲットに仕掛けを考えています。ジャパンレールパスなどを使って熱海日帰り旅行を推進していき、まずは知ってもらって“次回は泊まろう”という流れを作りたい」(加藤氏)

オール熱海体制によるプロモーション活動は、今日も続いている。