――ドイツの自動車業界全体が、外部からイノベーションを調達する必要を実感しているということか。

自動車業界は、自動運転技術の急激な進歩や「Uber」などの新しいプレイヤーの登場に危機感を抱いている。アメリカでよく使われる言い回しに「Disrupt yourself, before someone disrupts you」というものがある。まさにその通りで、彼らはベンチャー企業に破壊される前に、会社を変えなければならないと実感しているのだ。実際、「スタートアップ アウトバーン」では、世界中からベンチャーを探しており、最初のプログラムに参加した13社のうち、ドイツ系企業は2社のみだった。

――日本の現状をどう見ているか?

ドイツの自動車業界のように、危機感からディスラプションが起きる例は少ないだろう。日本では、ベンチャー支援がバラバラに行われている状況だ。企業も東京都もエコシステムづくりを推進し、大学もインキュベーションを始めている。さまざまな動きがある場にエコシステムができるという意味では良い方向に進んでいるが、横のつながりが弱い。それらをひとつのエコシステムにしたり、グローバルな市場につなげていくのが我々の役割だと思っている。

メルセデスの社長もジーンズとスニーカー

――日本での取り組みがバラバラなのはなぜか?

ベンチャーの必要性を感じてこなかったこと、ベンチャーに対して上から目線になっていたり、ネガティブな印象を持っていたりすることが背景にある。言語の問題も深刻だ。日本の大企業には、海外のベンチャー企業と英語で議論ができる人は少ない。そもそも、日本はこれまでベンチャー企業を生み出すほどの危機感がなかった。イノベーションにしても、社内のR&D(研究開発)から出てくるものだと思われており、イノベーションは外からも現れるという世界的な認識とは反対にある。今は変化の必要性には気づいているが、まだ次のステップには進めていない。

2016年7月15日、「スタートアップ アウトバーン」で登壇するダイムラーのディーター・ツェッチェ社長。(写真=ダイムラーのプレスリリースより)

その点ドイツの場合は、ダイムラーの社長でメルセデス・ベンツ・カーズのトップであるディーター・ツェッチェ社長が「スタートアップ アウトバーン」のキックオフイベントに、ジーンズとスニーカーで登場し、「車業界のトランスフォーメーションのために、シュトゥットガルトを車業界のシリコンバレーにしたい」と発言した。今まではスーツを着ていたドイツの大企業のトップが、このイベントのためにジーンズを履いたことには大きなインパクトがある。そういう強い方針があるからこそ、このプログラムは可能になったのだ。

――中国でもプラグ&プレイの拠点が増えている。

中国には8拠点ある。北京や上海という自治体の支援が後押しとなり、ここまで増やすことができた。中国では2015年から、起業やイノベーションを促進する政策が行われており、オフィススペースを安く貸し出したり、海外のベンチャー企業を呼んだりする際の支援をしている。ベンチャーの起業やイノベーションの推進により、経済やGDPが上がるということが見えているのだろう。