北海道・静内の商店街で個性を放つ「あま屋」

こうした「小さな店が変革を起こす」という事例はたくさんあります。先日も、北海道日高地方、旧静内町(現・新ひだか町)で驚く店に出会いました。その名は「あま屋」。

あま屋のある新ひだか町は、北海道の南東部に位置し、札幌市から車で約2時間半の立地です。決して恵まれた場所とはいえませんが、全国各地からファンが訪れる人気店であり、地域全体に変化を与えていると聞いて、仲間と共にたずねました。

店に入ると店主・天野洋海さんの元気な声が響きます。メニューには、ウニ、いくら、つぶ貝など、どれを選ぶか悩んでしまうような魅力的な食材が並んでいます。しかもどのメニューに対しても、情熱のこもった解説があるのです。私は地元食材を華麗に用いた絶品料理の数々に圧倒されました。同行していた仲間と共に、一瞬にしてあま屋のファンになってしまいました。

印象的だったのは、「エゾシカの熟成肉」を使った、特製トマト鍋です。見た目からしてインパクトのある鍋に、うま味たっぷりのエゾシカの熟成肉をしゃぶしゃぶして、あっさりした温かいダシにつけて食べます。食べ始めると箸が止まりません。

トマト鍋と熟成エゾシカ肉

地域の素材・資源を「料理」に引き上げる

トマトが名産品だからトマト鍋、地元で鹿がとれるからシカ鍋。そんなものは各地で多数食べさせられてきましたが、あま屋のそれは全く違いました。

元自衛官である相樂正博さんは退官後に地元に移住。退職金をつぎ込み「株式会社北海道食美樂」を起業し、試行錯誤の末、このエゾシカ熟成肉を開発したといいます。当初は熟成の手法だけでなく、販路開拓でも苦労したそうです。そんな折にあま屋の天野さんと出会い、コラボレーションを進めることで、先の特製トマト鍋を完成させました。そして、今やエゾシカ熟成肉は、国内の有名ホテル、海外の星付きレストランのシェフなどからも引き合いがあるほど、人気の食材となっています。

エゾシカ加工場の施設説明をする相樂社長

地域の素材・資源を単にそのまま出すのではなく、投資をともなう高次元の技術で加工し、さらに優れた調理技術をプラスして「料理」へと引き上げる。そして、それを店主の個性と経営力の組み合わせで事業として成立させる。これが地域食材の高い付加価値を生み出す原則です。