答えは「添付の別紙」にあった

続いて『犯罪事件受理簿』や『犯罪事件処理簿』を見たものの、開示された情報は僅かなものだった。しかも『処分説明書』に記された2件のうち、捜査にかかわる書類が存在するのは「10月15日」発生の1件のみで、「11月ころ」に起きたとされるもう1件には書類が存在しない。即ち、11月の件は事件化されなかった。加害者である巡査部長に渡す『説明書』には、はっきり2件とも「強制わいせつ」と書いてあるのに。

どういうことだ、などと悪態を吐きつつ開示文書を手の汗でふやけさせていると、机の上に投げ出したもう1つの書類にふと目が留まった。開示された文書ではない。文書の開示を求めた私に対し、「一部開示」の決定を知らせる『通知書』だ。

道警本部長の印鑑が仰々しく捺されたその書類には、「開示しない部分の概要及びその理由」なる1項目があった。当該欄を見ると「別紙のとおり」と書いてある。三つ折りに畳まれた通知書には、2枚の「別紙」が添付されていたのだ。

その「別紙」の2枚め、『犯罪事件処理簿』の「開示しない部分」を記した箇所の1行めを目にした瞬間、4色ペンを回しかけていた手の動きが止まった。

少年の氏名

少年? 文書には未成年の名が書かれているのか?

右手のペンを放り投げ、パソコンで道警の公式サイトを開く。そのころにはトップページをインターネットブラウザの「お気に入り」に登録していたため、繋がるのは速い。右上の検索窓に「警察学校」と打ち込み、開いたページの中から新人警察官の入校期間を記した箇所を探した。

すぐにみつかった。「大学卒業者は6か月間、その他の者は10か月間」とある。

未発表の強制わいせつで捜査された警察官は「巡査部長」だった。彼が高校卒業後、18歳で警察に採用されたとして、20歳になる前に、つまり未成年のうちに警察学校の教育を終え、巡査から巡査長に、さらに巡査部長に昇任することは、あり得るか。計算するまでもなかった。どう考えてもあり得ない。大学卒の場合は論外、採用時点ですでに成人だ。

つまり、「少年」というのは加害者ではない。被害者のほうだ。

例年5月、私は北海道の風土病「シラカバ花粉症」の洗礼を受ける。花粉飛散時期はくしゃみがひっきりなしに続き、目は開けていられないほどに痒くなる。その症状が一瞬すべてかき消え、充血した目が宙を眺めて数秒間固まった。

若くとも20歳代半ばのその警察官は、自分の所有するワンボックスカーの中で、未成年の女の子を相手に複数回、強制わいせつを行なったのだ。そして、そのうち1件だけで取り調べを受け、さらにその事実の発表を免れ、懲戒処分は「減給」で済んだのだ。

本部の捜査1課は、事件をどう処理したか。

目の前の紙束をかき分けて『犯罪事件処理簿』を探す。あった。そこには事件送致の有無、つまりこの強制わいせつが事件として検察庁に送られたかどうかを記録する欄がある筈だ。墨塗りはそこまで及んでいるか――。両目の焦点が一瞬で結ばれる。

辛うじて海苔(編集部注:墨で塗られた箇所のこと)はそこまで及んでいなかった。そこには、2つの選択肢が印刷されている。

身柄・(書類)

手描きでマルをつけられていたのは「書類」のほうだった。

紙を手に再び宙を仰ぎ、声にならない声で「書類送検……」と呟いた。

横浜で痴漢をした検事と同じ、書類送検だ。容疑者を逮捕せず、在宅のまま事件を検察官送致したのだ。現職警察官による未成年相手の強制わいせつ事件を、道警本部は書類送検としたのだ。

これが発表されないのは、被害者の「権利・利益」を保護するためなのか?