元官僚が生保会社で痛感した“民間の常識”

そのような中、「インターネットを使って保険料を安くしたい」というライフネット生命のメッセージに触れた時に、これは民間の方が、そうした技術を使うことによって生活を豊かにできるのではないか。自由に使えるお金を増やせるのではないかと思ったんです。たまたま大学のサークルで一緒だった友人が、ライフネット生命にいたつながりもあったので、面接を受けました。また、そのときはちょうど子どもが生まれたこともあり、「子育て世代を応援する」というメッセージも刺さりましたし、岩瀬(ライフネット生命社長)の講演会に行き、同じ世代の人ががんばっている話を聞いて自分も一緒に何かやれるのではと思い入社することになりました。

――実際に入ってみて、厚生労働省とはかなり違いますか。

【木庭】やはり、若い(笑)。厚労省は、男性が多くて職場の平均年齢も高かったですから。それから、みんな前向きで自分のやりたいことを比較的やりやすい環境だと思います。前職ではある程度大きな目標があってそれに向かって環境だ利害調整をしながら少しずつ進めていくような感じで仕事をしていました。ある意味当然なのですが、個人が「こうした方がいい」と思っても、それを実現するのはなかなか大変な世界です。

また、公務員時代は法令や制度を変える立場にいたので、あまり利害調整がいらない裁量の範囲では「これはおかしい」と思えば変えることができたのですが、民間企業では変えられない(笑)。ルールを作る側から守る側になったのは大きな視点、立場の変化でした。ライフネット生命の法務部にいた時は、法改正があればその都度それに対応しなければならない。正直、小さな会社では大変でしたし、必要以上に規制が複雑で多いのは民業圧迫で良くないなと思うようになりました。

歴史の話をするのは控えている

――最後に、出口さんの見習いたい点とそうでない点を教えてください。

【木庭】尊敬できる点は、分かりやすいメッセージを繰り返し言い続けるところ。大切にしたいプリンシプルを明確にしているところです。社員に対しては「明るく・楽しく・元気よく」と言い、お客様に対しては「正直に経営し、分かりやすく・安くて便利な商品・サービスの提供」を追及する。創業以降変わらずずっと言い続けているのはすごいなと思いますし、リーダーというのはそういう存在でなければいけないと思います。

ダメなところは……、私も出口と同じく旅と読書が好きなんですが、出口の前で歴史の話をすると大変なことになるので絶対にしないようにしています。私も歴史は小学生の頃からずっと好きでしたけど、出口は圧倒的な知識量があるので一言えば百返される。これはまだ議論を尽くしてないのですが、私は日本の歴史の中で江戸時代はいい時代だったと思っているんですが、出口は「いや、一番ひどい時代だった」と反論してくる。だから歴史の話をするのは控えています、本当に(笑)。

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険創業者。1948年、三重県生まれ。京都大学卒業。日本生命ロンドン現地法人社長、国際業務部長、ライフネット生命社長・会長などを歴任。
木庭康宏(こば・やすひろ)
ライフネット生命保険取締役。経営戦略本部長。1979年、熊本生まれ。九州大学法学部卒業。厚生労働省を経て2010年9月入社。2016年1月コーポレート本部長。2017年4月経営戦略本部長、2017年6月より現職。
(構成=八村晃代 撮影=慎 芝賢)
【関連記事】
上に立つ人は「0円情報」から知恵を盗んで稼ぐ
戦場に向かうリーダーが持つべき8つの常識
工場勤務の50代が病院事務長になれた理由
転職先で副社長"生き残る営業マン"の資質
なぜ「自部門のみのエキスパート」ではダメなのか