ツケを払うのは国民一人ひとり

こうした取引にリスクはあるだろうか? 香港から日本へインゴッドを持ち込む際に金の相場が下がっても、取引関係にあるAとBの間でグルグル回すだけなので相場の変動はまったく問題はない。あくまで「日本の消費税」を搾取することが目的だからだ。そう考えていくと、あえてリスクを挙げるなら、インゴットの現物を関係者が持ち逃げすること、税関で摘発後に判決により没収されることくらいだろう。

粗利は8%だが、経費はいくらかかるだろうか。日本への持ち込みには、LCCなど格安航空チケットを利用する。福岡から香港間ならば、バーゲンセールで片道1万円を切るなど近さもあり格安だ。インゴッド密輸業者の仲間内では、福岡か沖縄の税関が問題なくスルーしやすいというのが定評らしい。

佐藤弘幸『富裕層のバレない脱税』(NHK新書)

このスキームで損をするのは誰か? それは消費税を税関で徴収できなかった日本ということになる。日本の消費税相当額を、密輸者が搾取していく。しかも、何回でも繰り返して行える。まさに「ヤミの錬金術」である。奪われた消費税はもちろん、もとはといえば私たちが払った税金だ。つまり、そのツケを払うのは国民一人ひとりである。こんなイカサマがまかり通る現実を許すわけにはいかない。だからこそ、みなさんにはこうした現状を広く知っていただきたいと思う。

新刊『富裕層のバレない脱税』では、今回の記事で書いたような税金を巧妙に搾取する手法、風俗店などの現金商売から、宗教法人、富裕層の脱税まで、元国税局員としての経験をもとにさまざまな脱税手法を取り上げている。特に私が所属した国税局資料調査課(通称「リョウチョウ」)は、マルサを超える最強部隊とも称される部署であり、ターゲットは「大口」「悪質」「宗教」「政治家」「国際取引」「富裕層」など調査するのが困難な案件を多く担当した。その経験に基づいた本なので、脱税手法や税務調査に興味のある方は参考にしていただければ幸いだ。

佐藤 弘幸(さとう・ひろゆき)
元東京国税局・税理士
1967年生まれ。プリエミネンス税務戦略事務所代表。税理士。東京国税局課税第一部課税総括課、電子商取引専門調査チーム、統括国税実査官(情報担当)、課税第二部資料調査第二課、同部第三課に勤務。主として大口、悪質、困難、海外、宗教、電子商取引事案の税務調査を担当。2011年、東京国税局主査で退官。著書に『国税局資料調査課』(扶桑社)、『税金亡命』(ダイヤモンド社)がある。
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