事業承継は中小企業にとって最大の課題だ。あるマンション修繕会社では、創業者が70歳を迎えたことから、「まだ物足りない」という娘婿に社長の座を譲った。ポイントは株式の70%のファンドに売却した点。売却には条件があり、好業績であれば5年後に株式を買い戻せる。つまり新社長の奮起を促す仕組みになっているのだ。M&Aのプロが、これからの中小企業の生存戦略を解説する――(全4回)。

プライベートか、パブリックか

M&Aにおいて、中堅・中小企業のオーナー経営者にとってのポイントはふたつです。

ひとつは、時代の流れのなかで、事業承継と成長戦略のハイブリッド(かけ合わせ)ともいえる事例が増えてきていること。つまり、「成長戦略型の事業承継」の潮流が生まれている点です。

もうひとつは、成長戦略型の事業承継を成功させるには、「オーナー経営者(親族を含む)」「社員」「会社」を頂点とした三角形のバランスが重要であること。別の言い方をすれば、成長戦略を重視した事業承継ではパブリックの意識が求められる点です。

もちろん事業承継対策の方法は、オーナー経営者の目的によって異なります。

仮に、プライベート優先で事業承継するなら、それに合った手段があります。たとえば、一般的な事業承継対策として考えられるのは、大きくは次の4つでしょうか。

 

(1)社員持株会の設置
(2)親族への株式譲渡
(3)ホールディングカンパニー(持ち株会社)の設立
(4)公的支援機関の活用

オーナー経営者やその子どもたちの幸せを最優先に考えるなら、これらの事業承継対策は十分に効果を発揮します。

ただし、これら4つの場合、使い方を間違えると、会社の成長力を削ぐ可能性がある点には注意が必要です。

とくに、相続税の軽減に力点を置いた事業承継対策は、必ずしも会社や社員の未来を明るくするわけではありません。三角形のバランスを考えるなら、別の事業承継対策が必要です。

有力な選択肢は2つあります。「IPO」(株式上場)と「ミニIPO」です。

くわしく見ていきましょう。