長期政権を維持する社長の人員配置術

【銀行】トップの権限は絶大です。頭取になっても自分の年次に近いライバルを蹴落とせば、長期政権を維持できる。ほかの銀行では優秀な役員のほとんどを外に出した頭取もいましたね。生き残ったのは自分の側近などいわゆる身内ばかりだった。

【メーカー】信頼していた部下の裏切り行為を絶対許さない役員もいます。ある事業部門の部長が、上司の役員とライバル関係にある役員と親密な様子を見られました。それを知った役員が自室に部長を呼んで「お前は自分が何をしているのかわかっているのか!」と叱りとばした。部長が黙っていると、目の前の硝子の灰皿を本人に投げつけたんです。咄嗟に部長がよけると「なぜ、よけたんだ!」とさらに怒られた。その後も執拗なイジメを受け、とうとう部長はうつ病で休職に追い込まれてしまいました。

【ゼネコン】それはひどい。でも信頼を置く部下でも不祥事を起こすと擁護するどころか、手の平を返したように切り捨てることはよくあります。じつは以前、地方の事業所で月の残業時間が100時間を超える社員の労働実態が労働基準監督署の調査で発覚し、是正勧告を受け、社内が大騒ぎになったことがあります。責任者の担当取締役は社長の信任も厚く、実際に会社の業績に貢献していた優秀な人でした。その一方で部下には厳しく、長時間労働をやらせていたのです。労基署の是正勧告を受けても反省の色は微塵も見せない。事業部の会議でも「うちの事業計画は残業を前提に成り立っているんだ。残業がだめだとかバカなことを言うんじゃない。残業が80時間を超えるのは当たり前だ。それを含めての事業計画なんだよ」と言ったらしい。

それが社長の耳に入ったんです。取締役会で「お前はコンプライアンス違反で会社の信用を傷つけているのがわかっているのか、社名を公表されたらどうするんだ」と本人を手ひどく叱りつけました。そして、その場で取締役を解任され、執行役員に降格させられました。ほかの役員たちは社長の側近中の側近であることを知っていたので驚いていました。

【司会】それは嫌われそうですね。信頼する部下でも容赦はしないということですね。その後、その人はどうなりましたか。

【ゼネコン】1年後に取締役に復帰し、副社長を経て副会長にまでなりましたよ(笑)。2人の間で密約があったのかわかりませんが、結局、騙されたのはそれ以外の役員たちだったのかもしれません。