そこで、井上さんは、経営危機を乗り切るため、自治体向けクラウド事業をスタート。前職での経験や人脈を生かしてプロジェクトを次々と受注、そのおかげで会社の業績は持ち直した。入社半年後の2009年11月には本部長、その3週間後には執行役員に任命された。

入社から3年後には社長に

さらに、10年6月には常務、同年10月には専務、11年2月には副社長とトントン拍子に出世。そして、12年4月にはついに社長に就任、図らずも経営トップに上りつめた。もちろん年収は、前職のときよりも大幅に上回るようになった。

西山さんは、「井上さんは前職のときから、上下の分け隔てなく、取引先とも対等に付き合っていました。新しい仕事がうまくいくのは、前職の取引先に支援してもらえる、公平な姿勢であることも要因です」と明かす。井上さんの場合、その性格が自治体向けクラウド事業の成功につながったわけだ。

高い専門スキルを生かし、月100万円以上稼ぐシニアもいる。総合商社で長年、電力ビジネスを手がけていた大川拓郎さん(仮名)は定年後、約2年のブランクを経て、マイクロ水力発電(河川に水車を設置するなどの小規模発電施設)のプラント開発支援業務をフリーで受託している。大川さんは、もともと文系出身の営業マンだが、風力発電やバイオマス発電といった「再生可能エネルギー」に関するノウハウを独学で取得した。そうした新電力に詳しい専門家は少なく、引く手あまたなのだ。

大川さんを紹介してくれたのはジーニアス社長の三上俊輔さん。同社はシニア人材紹介事業に取り組んでおり、約2万人が登録する高齢者専用の求人サイト「シニア活用.com」も運営している。専門職には高齢でも根強いニーズがあるという。

だが、三上さんは「専門職には、職人気質はもちろん重要ですが、QTC(品質・時間・コスト)の管理も求められます。大川さんのように、新しい技術や環境に適応できるタイプが人気ですね」と話す。つまり、自分の過去のスキルにとらわれず、それをリセットできる性格が望ましいといえるわけだ。