家事をしないインドのお父さんたち

社会性をともなう情報発信とは何か? 非常にわかりやすいのが「家事をしないインドのお父さん」に着目した、P&Gの洗濯洗剤「アリエール」のキャンペーンである。「Share The Load(シェア・ザ・ロード)」と名付けられた、この取り組みはいわば、洗濯(家事負担)を夫婦でシェアしましょう、という意味だ。

まず前提として知っておきたいのは、インドにおける父親像とは、日本でいう亭主関白。まったく家事を手伝わないのが当たり前であり、「仕事から帰ってきたらまず、チャイでしょ。それが何か?」という状態だということである。ニールセン・インドが5都市で行った調査によれば、インド人男性の76%は「洗濯は女性の仕事」と考えており、3分の2以上の男性が、「女性が洗濯をしている間、自分はテレビを見ている」と答えている。インドも女性の社会進出が進み、高学歴・高収入の女性が増えた。にもかかわらず、依然、家事はすべて女性の仕事とされている社会背景がある。

ユーチューブなどにアップされた動画ではまず、インドの母親たちが娘の話をしている。

「うちの嫁も仕事が忙しくてね、息子よりも高給取りみたいなのよ」「私たちの頃とは大違いよね」

すると、奥からお婿さんの叫ぶ声が聞こえてくる。「ねぇ、ぼくの緑のシャツ、なんで洗濯していないの~?」一斉に振り返る母親たち。そこでこんなメッセージが流れる。「なんで洗濯は女だけの仕事なの」。

娘の話をする母親たち。このあと息子が「ねぇ、ぼくの緑のシャツ、なんで洗濯していないの~?」と叫び、「なんで洗濯は女だけの仕事なの」のメッセージが流れる。

話題性のある動画で火をつけ、マスコミにキャンペーンを張った。その結果、「いかにお父さんたちが家事をしないか」をテーマにした討論番組が放送され、大いに盛り上がった。インドのファッションウィーク中にアパレルメーカーと組み、「なんで洗濯は女性だけの仕事なの」というメッセージを掲出。さらに、あるアパレルメーカーの服の洗濯マークのタグに「Can be washed Boss & Women (男女関係なく洗濯できます)」と皮肉を込めたメッセージを入れるといった試みもなされた。その結果、SNS上でインドのお父さん約150万人が「洗濯します」と宣言するムーブメントにまで発展した。

この施策は、まず「インドのお父さんは家事をしない」という“おおやけ”の問題を提起しつつ、服つながりでアパレルメーカーを巻き込み、お父さんたちの意識改革を推進。女性側も「いいこと言ってくれるわね、アリエール」とブランドの好感度が上がるという、王道のPRなのである。しかも、仮に一連のキャンペーンにお父さんが洗濯に目覚めたとすれば、洗濯洗剤を選ぶ際、アリエールを選びやすくなるという効果も期待できる。