伝統的な自動車メーカーの尾を踏んだ

【安井】トヨタもメルセデスもテスラをサポートした時期があったわけですね。

【清水】ところがモデルSがとても売れた。高級車市場を奪われたベンツにとってはテスラはライバルになった。メルセデスは頭にきたので株を売り払って、「打倒テスラだ」となりました。トヨタもつい最近にテスラ株を全部売って、かなり儲けたとみられています。一番プライドが傷ついたのがポルシェ。テスラは、ポルシェターボより速いという宣伝をアメリカでしていたので、ポルシェは頭に来て、ミッションEというEVを作っちゃった。テスラが伝統的な自動車メーカーの尾を踏んでしまったわけです。

モータージャーナリストの清水和夫氏

【安井】そうなってくるとベンツもポルシェもみんな本気にならざるを得ない。ハイエンドのEVの戦いは激しくなりますね。

【清水】そうですね。テスラにとってのメリットはもう一つあります。

【安井】何ですか?

【清水】米国のカリフォルニア州にはZEV(Zero Emission Vehicle)規制があります。同州で車を売っているメーカーは販売台数のうち一定割合を、排出ガスを一切出さない電気自動車や燃料電池車などのZEVにしなければならないという規制です。ZEVが下回っているメーカーは罰金を取られます。それが嫌なら一定割合以上にZEVを売っているメーカーからクレジットを買い取ればいいのですが、クレジットを売っているのはテスラなどEVを積極的に売っているメーカーです。買い取っているのはトヨタやホンダ、GM、フォードなどのビッグ3です。テスラはクレジットの売却で年間数百億円の利益を上げています(2015年第一四半期で5100万ドル)

テスラにとって一番厄介な敵は水素

【安井】ZEV規制がテスラの業績を下支えしているわけですね。

【清水】この規制でホンダやトヨタは年間数十億円のお金をテスラに払っているわけです。それがテスラの大きな収益源になっている。このことが実は、イーロン・マスクが「水素はバカだ」と言い、燃料電池車(FCV、フューエルセル車)を「フール・セル」と揶揄している理由だと僕は思っています。

【安井】なぜですか。

【清水】テスラにとって一番厄介な敵は水素だからです。