「引っ越し」をすると使用料は戻らない

もし、民営墓地の経営母体が倒産したら、高い永代使用料を払って手に入れたお墓はどうなるのか。

「墓地使用権は物権的性格を持つとされています。ですから、墓地の倒産後、土地を競売で手に入れた人がいて、更地にしたいから出ていけと言ってきても、拒否してお墓を使い続けることは可能です」

他の用途に使えないなら、異業種の事業者は入ってこない。現実的には、他の宗教法人や公益法人が経営を引き継ぐことになるだろう。その意味では安心だが、新事業者が引き継いだ場合、経営の安定化のため、管理料が値上げされるおそれもある。

こうしたリスクを避けるため、倒産前に安全な墓地に引っ越す選択肢もある。ただ、問題は墓地購入時に支払った永代使用料だ。これは、永代にわたってお墓を使う権利の対価。途中で使用をやめるのだから、代金の一部は返還してくれてもよさそうなものだ。

しかし、現実は甘くない。墓地購入後、未使用のまま14年後にお寺に契約解除と永代使用料の返還を求めた訴訟で、「返還の必要なし」という判決が出た(京都地裁、平成19年6月29日)。永代使用権を認め区画を引き渡した時点で、お寺は義務を果たしたという判断だ。未使用でも返還義務なしとなると、いったん使用しているお墓はなお厳しい。

「逆にお寺から抜魂式の費用や離檀料を要求されることもあります。遺骨や墓石を自分で収去するならともかく、お墓の撤去のために業者を入れるなら、やはりお寺の許可がいる。いくらかは包まざるをえないのが実情です」

あとから引っ越すのは何かとハードルが高い。あらかじめ経営に不安のない墓地を選ぶべきだろう。

(答えていただいた人=弁護士 小松初男 図版作成=大橋昭一)
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