中国に学んだ? アメリカへの対抗戦略

こうした北朝鮮のステップは、かつての政治的宗主国である中国が長らく行ってきたことに似通っている。中国は通常戦力の近代化を捨ててまで核戦力の整備を行い、それが完成してから軍の近代化に着手した。その結果として海軍力を拡大し、アメリカやその同盟国が大陸沿岸に接近するのを阻止する戦略を進めるようになった。

北朝鮮が中国の手口を真似ているとおぼしき事例は他にもある。中でも注目すべきものが、2017年5月29日に発射した、対艦弾道ミサイルとされる新型ミサイルだ。

中国は、実用化された唯一の対艦弾道ミサイルとしてDF-21Dを保有する。有事の際、米空母機動部隊に向けて発射されたDF-21Dは約1700kmを飛翔、弾頭部はアクティブレーダーホーミングによって目標へと誘導される。恐ろしいのは、この弾頭を高高度で破砕させることによって、目標艦隊の上空に超高速の破片をまき散らせるという点だ。現在の戦闘艦はレーダーを始めセンサー類の存在が非常に重要で、その機能を失うことは五感を遮断されるに等しく、射撃管制も困難になって、いわば丸腰の状態となる。実際に、米海軍はDF-21Dの登場以降、各艦艇の間隔を広く空ける運用を行っており、これは対艦弾道ミサイルに対抗するためのシフトだと考えていいだろう。

北朝鮮の対艦弾道ミサイルはこれの小型版と考えてよく、実運用に至れば、アメリカや韓国の艦艇が朝鮮半島沿岸部に接近するのをためらわせる効果がある。加えて北朝鮮は以前から短距離の対艦ミサイルの装備化を進めており、潜水艦を使った機雷敷設と併せて、多層化された対艦シフトを作りつつあるようだ。5月29日の発射実験では、ほんの数日前まで米空母が行動していた海域に向けて撃ち込んだという話もあり、ある筋の情報によれば、対抗措置として爆装した艦載機が直ちに米空母より発艦、38度線に向けて急接近する示威行動もあったという。

「第二次朝鮮戦争」北朝鮮はこう攻める

この先、大規模な紛争が勃発、北朝鮮が先に南進を開始したと想定した場合は、開戦と同時に釜山への集中的な短距離弾道ミサイル攻撃が行われ、同じく韓国の首都ソウルへの集中砲火が行われる可能性が高い。併せて韓国軍に浸透したスパイによるクーデターも発生すれば、意外と短期間のうちに半島全土が制圧されるかもしれない。

この状態で停戦交渉が発議され、その席で北朝鮮側から核拡散防止条約(NPT)への加盟や民主的な選挙制度の導入などが提案されれば、アメリカとしては非常に分が悪い。当然、中国とロシアはその提案を全力で支持するだろう。