海外M&Aの巧拙が業績に直結する

キリンHDの下方修正やアサヒグループHDの上方修正の主な要因は、海外M&A(買収・合併)の巧拙による。

『図解! 業界地図2018年版』では、特集で「M&Aが上手な企業、下手な企業」というテーマを組んでいるが、特にM&Aに投じるキャッシュを計上するキャッシュフロー計算書(CF計算書)のなかの「投資CF」に注目して、主要各社のM&Aの成否に言及している。

『図解!業界地図2018年版』ビジネスリサーチ・ジャパン著 プレジデント社

例えば、サントリーHDはバーボンを手がけている米ビーム社を買収した年度に、投資CFとして1兆4737億円を出金。キリンHDもこの10年間で、海外企業の買収など投資CFの出金は1兆円を超す。

そうした多額のキャッシュを投じた海外M&Aだが、サントリーHDはまずまずの成果をあげていると判断していいだろう。実際、ビーム買収後は売上高を伸ばしている。

一方、キリンHDの海外M&A、特にブラジル案件は失敗だったことが明らかだ。約3000億円を投じてブラジルに進出したものの販売不振から経営のお荷物になり、結局は約770億円で売却した。売上高の下方修正を余儀なくされたのもそのためだ。同グループはミャンマー事業を拡大させているが、ブラジルと同様に現地企業を買収して展開している豪州でも酒類事業における販売数量が減少するなど、克服すべき課題を抱える。

アサヒグループHDは、ビール世界トップのアンハイザー・ブッシュ・インべブ(ベルギー)に吸収されたSABミラー(英)の西欧と中東欧事業を約1兆2000億円で買収しているが、投資CFでは16年12月期に2685億円、そして17年6月の中間決算では新たに9203億円、合計では1兆1888億円のキャッシュを社外に投じたと計上している。こうした西欧・中東欧事業が連結決算に新たに加わったことで、17年12月期には売上高でキリンHDを上回ると予想したわけだ。10年12月期時点では、アサヒグループHDはキリンHDに売上高で約7000億円の差をつけられていた。

アサヒグループHDのM&A戦略は、現在のところ順調に推移していると見ていいだろう。西欧・中東欧事業と入れ替えるように中国合弁企業の株式は売却している。

ちなみに、ビール世界トップのアンハイザー・ブッシュ・インベブの16年12月期における投資CFの出金額は600億ドルである。「1ドル=110円」換算で、およそ6兆6000億円だ。SABミラーの買収などに巨額のキャッシュを投じたためで、国内ビール4社とはM&Aの規模が違うといっていいだろう。そのアンハイザー・ブッシュ・インベブの17年1月~6月の売上高は271億ドル(約2兆9800億円)。前年同期の202億ドルからは34.1%増である。

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