この循環型モデルを基にすると、従来型のコミュニケーション戦略は見直しを迫られていることがわかります。従来は、マスメディアを通じて商品を認知させ、プロモーションで購入を促す、というように、消費者の情報接触から購買までの流れを企業がコントロールすることを前提に行われてきました。しかし、クチコミという、企業がコントロールできない情報を用いて購買に至る消費者が登場している現在は、各段階のコミュニケーションを連動させ、情報が消費者を通じて潜在顧客に流れるサイクルを循環させていくことが重要になります。

例えば、テレビCMには、単に商品の認知を高める役割だけでなく、「このCM面白いね」とクチコミで話題にしてもらえるような工夫が求められます。そして購買の場では、CMと連動したPOPを掲げ、購入した人がクチコミをし、それが「いいね」をどれだけ獲得しているかなど、コミュニケーションの効果を総合的に測定することで、マーケティングの成果を把握できるようになるでしょう。購買時における消費者の意識は、SNSのなかった時代に比べると、明らかに変化しています。購買する商品を選択する段階で、「今話題になっているかどうか」を重視する傾向が強まっているのです。従来であれば、購買の選択肢に入れてもらうためには、商品の名前を認知してもらうことが重要でしたが、現在はそれだけでは弱く、クチコミで話題になっていなければ、選択肢に残らないケースが増えています。それだけに、CMを打つにしても、認知度を高めるだけでなく、クチコミにまでつなげて情報を循環させることが求められます。

また、商品のブランドイメージによっても取るべき戦略は変わってきます。例えば、情報に敏感な先端的消費者が多く購買している商品であれば、常に何か新しい話題を打ち出していく必要があります。一方、定番商品であれば、店頭でのプロモーションに力を入れるべきです。また、定番化によって情報感度の鈍い顧客が増えてくると、感度の高い顧客が離れてしまう危険性もあります。それを防ぐために、定期的にリニューアルを図るなどして話題を喚起することも必要でしょう。

循環型マーケティングのカギを握るのは、情報を循環させる消費者です。それは、どのような消費者でしょうか。SNSが登場した当初はブログが中心だったため、パソコンを使って、かなりの文字数を書く必要がありました。そのため、クチコミを発信するハードルは高く、発信者の多くは質の高い情報を発信していました。ところが現在は、スマートフォンでツイッターやインスタグラムなどを使い、誰でも手軽に情報を上げられるようになり、結果として誤った情報もたくさん上がるようになっています。それだけに企業としては、質の高い人、つまり商品のよし悪しが本当にわかる人に情報を発信してもらう必要があります。そのような先端的消費者を私は「情報循環層」と呼んでいます。情報循環層は、「ほかの人に情報を回せる力」「新商品への感度の高さ」「豊富な情報源を利用できる力」の3つを兼ね備えていることが調査を通じてわかってきました。