クリスマスイブの奇跡

定温輸出梱包サービス「パックプロ」をはじめたのは2008年のこと。関西空港内に拠点を設けたが、大半の荷主は新しいサービスを使おうとはせず、従来通り、梱包会社で梱包してから空港に運んでくる。西田は苦しい思いをしたという。

関西国際空港内の梱包施設。

「関空の家賃が高くて、当初は1日の家賃と1カ月の売り上げが同じでした。ゴールデンウィークのときは、休みで注文など入らないけれど、家賃は毎日、落ちていく。気休めに家族を連れて、関空のセンターに行き、フォークリフトに子供を乗せて遊ばせていましたよ」

累損はどんどん積み上がる。経理担当の役員は「もう見切るしかない」と迫ったが、西田は「もう少し我慢しろ」と強気の姿勢を示した。しかし自分でも自信はなかった。

「このままではつぶれると思い、どんな仕事でも断るな、『ノー3回で退場』という運動を始めました」

そんなことを言い始めてすぐ、新人営業マンが注文を採算に合わないということで3回連続で断ってしまった。 西田は3時間、懇々と説教したという。その営業マンは「社長に3時間正座させられた」とこぼすが、今では社内のエースとして成長している。

2010年のクリスマスイブ、 100箱以上を梱包、輸出してほしいとむちゃな注文が入った。他社に断られて仕方なくワコンに来たことは分かったが、「ノーと言わない」と決めた西田は、全社を挙げてこの仕事に取りかかった。

発注元の幹部たちは心配して様子を見に来たが、ワコンの仕事ぶりに驚いたという。作業は予定通りに完了。西田たちはこれを「クリスマスイブの奇跡」と呼んでいる。以来、この会社は得意客になってくれ、少しずつ仕事が増えていった。最近になって、関空のロジスティクスセンターは赤字を解消し、成田空港とあわせて同社の収益源になりつつある。

梱包サービスは職人技の世界だ。いくら、最先端の機器や技術を導入しても、経験がサービスの品質を左右する。西田はそんな職人技が好きだし、職人を尊敬している。

「その中で1人ひとりの生産性をどう上げていくかが問われる。社員と決算数字などを共有し、付加価値を上げることの重要性を理解してもらうようにしています」

ワコンは業界でいち早くフレックスタイムを導入、夏祭りなどのイベントも多い。社員と共に新事業とワコンを作り上げてきたという西田の思いが成長を支えている。

(文中敬称略)

ワコン株式会社
●代表者:西田耕平
●設立:1972年
●業種:包装物流資材製造、航空貨物輸送梱包、物流システム商品開発など
●従業員:108名(うち正社員70名)
●年商:19億5000万円(2016年度)
●本社:和歌山県紀の川市
(写真提供=ワコン)
【関連記事】
社員20人"元祖ハイサワー"レモン汁の秘密
今年日本に"ドローン元年"はやってくるか
アフリカで大成功!"新興国のアマゾン"へ
ヤマト運輸がサービス見直し迫られたわけ
パンク寸前!宅配現場を救う一元化プラン