必要な場所に必要なモノを届けるための「ロジスティクス」。その現場が、今、さまざまな課題を抱えている。物流、ロジスティクスの最新動向に詳しい神奈川大学の齊藤実教授は、「こうした変革期こそ物流を戦略化する好機」と指摘する。

今、物流が注目される二つの理由とは──

経営トップは物流担当役員とこれまで以上のコミュニケーションを
齊藤 実(さいとう・みのる)
神奈川大学 経済学部教授
1954年千葉県生まれ。法政大学大学院社会科学研究科博士後期課程単位習得。日通総合研究所で物流、交通に関する国内外の調査プロジェクトに従事。その後、神奈川大学経済学部助教授を経て、現職。著書に『最新業界の常識 よくわかる物流業界』『物流ビジネス最前線』など。

──物流の専門家として、現状をどう見ていますか。

【齊藤】物流やロジスティクスは、以前から企業経営を左右する戦略課題として語られながら、実はそれほど重視されてこなかった現実があります。ところがこの1、2年、非常に注目されるようになった。その理由は大きく二つ。ネット通販ビジネスの拡大と物流現場での労働力不足です。

前者について、ネット通販は右肩上がりの成長産業であり、消費者にとっても身近な存在。当然ながら、そこで物流は大事な役割を担っています。特に「当日配送」や「送料無料」といったサービスが他社との差別化要因として機能し、また荷物を最寄り基地から自宅まで届ける、いわゆる「ラストマイル」では多頻度小口輸送という面で高度なサービスを求められている。その中で、物流が文字どおり“生命線”となっています。

後者については、ロジスティクスを支える基盤である物流センターでの人手不足や、輸配送業務を担うドライバーの不足が切迫した課題です。これは単にネット通販や宅配便だけの問題にとどまらず、輸配送の安定供給が脅かされているという点で、広く社会全体に影響を及ぼしています。

これら二つが交差することで、輸送・物流コストが上昇し、事業活動にも大きく波及することになる。今、経営層の間でロジスティクスが関心を持たれている背景には、こうした状況があると私は見ています。

──物流を取り巻く環境が以前と大きく変わってきたということですね。

【齊藤】そうですね。これまで優れた物流システムは、競争力の源泉といわれてきました。物流機能をより効率化し、コストを圧縮することで、それが利潤となった。それは今でもいえることですが、これからは、いかにコスト上昇を抑え、なおかつ高度で安定した物流サービスを提供できるか。これが、企業が成長できるかどうかの直接的な分かれ道になり得ます。当然、業種・業態によって物流の重要性に濃淡はありますが、物流危機はもはや放置できない状態になってきており、経営者はしっかりした戦略性を持って全力で取り組んでいかなければならないでしょう。

「輸配送の共同化」など課題解決への動きが加速

──そうした中で、注目している動きはありますか。

【齊藤】私が今面白い取り組みだなと思っているのは、「輸配送の共同化」です。荷主企業がイニシアチブを取り、複数のトラック運送業者を束ねることで、積載率を向上させ効率的な配送を具体化している。ビール業界や食品業界では、ライバル企業同士が手を結び共同輸送を実現しています。

国土交通省の資料より作成

昨年10月に施行された「改正物流総合効率化法」(図参照)も共同輸送の動きを加速しました。ただ、それがなくても荷主企業は連携に動いただろうと思います。事実、今回の連携の背景には、物流危機に対応する経営トップの戦略的決断があった、と聞いています。

一方同業種だけでなく、メーカーや小売りなども、同じサプライチェーンの中で輸送網を集約し、さらに共同で長距離の中継輸送を始めています。安定的な輸送を確保するために、また将来的に上昇するであろうコストを削減するために何をすべきか──皆真剣に考え、動いているのです。

──そのほか、業界ではどのような変化が起こっていますか。

【齊藤】物流センターの大規模化、自動化があります。「入荷─保管─在庫管理─ピッキング─梱包─出荷」という一連のセンター機能は、従来作業員による人海戦術が担ってきました。それが近年、センター作業の省力化、自動化が急速に進んでいます。最新鋭のセンターでは自動ピッキングシステムのほか、各種データに基づき搬送ロボット自体が、効率的な荷物のロケーションを判断するなどしています。

もっともこれには相当規模の設備投資が必要で、大手企業以外ではなかなか難しい。そのため物流全体をアウトソーシングするという傾向は、今後ますます強まるでしょう。いわゆる「3PL(サード・パーティ・ロジスティクス)」の活用です。3PL事業者はコンサルティングから情報システム、物流センターのオペレーションまで、複合的に物流業務を提供しています。配送の多頻度小口化が進む中、高度な物流サービスを維持しつつ、物流コストを削減するには、そうした全体最適の仕組みとスキルを持つ事業者の活用は有効です。また労働力不足への対応という面でも効果は大きいと思います。

──やはり物流業界では労働力不足という課題が大きいのですね。

【齊藤】特に輸送の根幹を支えるトラック運送業では、深刻なドライバー不足が生じています。これには産業構造自体の要因もあり、改善にあたっては業界全体で取り組んでいく必要があるでしょう。例えば、女性ドライバーや新卒ドライバーがより働きやすい環境をつくっていくことは一つの方策です。

また荷主企業に話を戻せば、先述した共同輸送などを契機に、物流の不合理性を取り除く努力も欠かせません。経営者においては、今後、これまで以上に物流を管轄する担当役員と密にコミュニケーションを取ることが重要になるでしょう。商品開発や営業などと比べて、物流やロジスティクスの課題は表面化しにくい面があります。しかしそれを明らかにし、解決することができれば、業務全体の改革が大きく進むはず。競争力強化のまたとないチャンスとなるに違いありません。