日本大学 准教授 安藤至大さんからの提言

▼非正規の処遇改善には、同一労働同一賃金のほかにさまざまな手段がある

同一労働同一賃金について活発な議論が行われています。これは、同じ仕事をしていれば、雇用形態にかかわらず同じ賃金が支払われるという考え方。欧州では当然のことなのに、なぜ日本では実現していないのでしょう。

それは働き方の基本ルールに大きな違いがあるからです。欧州では、仕事に対して賃金が設定され、そこに労働者が採用される職務給が一般的です。これに対して日本では、正規雇用労働者の場合、人に対して賃金が設定され、その人に仕事を割り当てる職能給が多く見られます。

これまで日本では、企業業績に応じて労働者の賃金が変わることや、同じ企業で同じ仕事をする労働者の間であっても、雇用形態や年齢等によって賃金に差があることは当然として受け入れられてきました。仮にそれらを禁止して欧州型の同一賃金を強制すると、未経験者の採用や配置転換を通じた人材育成、また年功賃金等を実現不可能にするなど大きな弊害が発生します。よって同一労働同一賃金については、著しく不合理な待遇格差についてのガイドラインを定める以上のことはするべきではありません。

そもそも同一労働同一賃金の議論は、非正規雇用労働者の処遇改善を目的として始められました。時給で比較したとき、非正規は正規のおよそ6割の賃金であり、差が大きすぎるというのは確かに問題です。

しかし非正規の処遇改善にはさまざまな手段があります。労働条件を向上させるためには、人手不足であることと労働者の能力が高いことが必要です。よって経済を活性化させる政策を引き続き強力に推し進めるとともに、非正規雇用労働者の技能を向上させるための教育訓練を支援するなど、より効果的な施策に尽力すべきです。

撮影=澁谷高晴