2017年8月25日(金)

焼鳥用品種「高坂和鶏」はなぜウマいのか

世界唯一の熟成可能“無菌地鶏”

dancyu 2015年7月号

文・堀越典子 撮影・海老原俊之、高見尊裕

熟成和牛のステーキや熟成豚のとんかつは珍しくないのに、なぜかとんと見かけない「熟成鶏」の焼鳥。と思っていたら、東京ど真ん中、花の銀座で真打ち発見! 料理人と生産者のタッグが生んだ熟成可能な無菌鶏「高坂和鶏」。その誕生ストーリーとは?

丹波の緑豊かな自然環境の中、平飼いで伸び伸びと育てられる高坂地鶏は、卵肉兼用種のロードアイランドレッドとハンプシャー種の交配種。増体率が高く、90日前後の日齢で4kgの大きさに成長する。

ブレス鶏級の和食用の地鶏!

東京・銀座の「たて森」といえば、焼鳥好きが「なかなか予約が取れない」と嘆く繁盛店である。いわゆる焼鳥屋とは違い、鳥刺しから握り、焼き物、椀物などを含む鶏料理をコースで供するスタイルだが、主役を張るのは、やはり鶏の炭火焼きだ。店主の建守護さんが焼く鶏は、表面はカリッと香ばしく、噛めば柔らか。そして柔らかさの表情の実に豊かなこと。もっちり、ねっとり、さっくり、ふわふわ、プリプリ、くにゅくにゅ。鶏の食感とは、かくも饒舌だったのかと驚かずにはいられない。

これほど多彩な弾力感が味わえるのは、ももやささみなどの正肉はもちろん、レバーをはじめとする内臓肉まで、火の通し方がレアに近いことが大きい。つまりは、生でも食べられる素材であるということ。日本の食鳥事情の常識に照らせば、衛生上の理由から、朝絞めの鶏を使う以外には考えられない。しかし、「たて森」では朝絞めどころか、つぶしてから短くても5日、長い場合では1カ月近く熟成させた鶏を使う。理由は簡単。熟成で肉は柔らかくなり、脂はクリーミーに。フレッシュな鶏とは別物のコクと甘味、食感のなめらかさが備わるとわかっているからだ。熟成後の肉は“焼き”だけでなく、刺身でも提供する。なぜ、そんなことが可能なのだろうか。

「食中毒菌が一切検出されない、完全無菌の鶏を使っているから。それがすべてです」

その鶏の名は「高坂和鶏」。生みの親は、丹波の養鶏家・高坂英樹さんである。2003年から養鶏を始め、世界最高峰の肉質と品質基準の厳しさで鳴らすフランスのブレス鶏を目標に「高坂鶏」(現在の名称は「高坂鶏プレミアム」)を育成。独自の研究を重ねた末、世界唯一の“無菌鶏”として世に送り出した。その美味は、すぐに賞賛の的となり、「カンテサンス」を筆頭とする一流レストランから指定がかかるブランド地鶏に成長した。そのポテンシャルに驚いた建守さんが「この鶏をベースに、より和の料理に向くモデルをつくれないか」と発案し、高坂さんとともにつくり上げたのが、「高坂“和”鶏」なのである。

高坂和鶏は先輩格のプレミアムに比べ、肉質をより柔らかく、コースで食べても胃もたれしないよう、脂ののりを控えめにするなどの“改良”が加えられている。しかし両者に共通する最大の特質は、無菌であるがゆえに熟成ができることだろう。

「内臓付きの鶏をさばいた後でも、まな板から菌が検出されないんです。だから、1カ月熟成させた後でも生で食べられる。丸のままでも、解体した後でも、凍らせた状態でも、明らかに熟成が進んでおいしくなる。従来の熟成の概念をすべて覆す鶏。高坂和鶏を構想することで、焼鳥の店をやろうという発想も生まれた」と建守さんは話す。まさに、人生を変えた出会いといっていい。

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堀越 典子