7月15日に放送された『小さな旅 地下の街 袖すり合って ~新潟市 古町~』は、万代橋を経由する映像を経て、山田敦子アナウンサーが41年前に作られた新潟市の古い地下街へ入っていく場面から始まる。

NHK『小さな旅』公式サイトより

客がテーブルを囲んで店員と談笑している服飾店の風景を通し、この地下街がサブタイトルの通り、中高年層が「まったり」と交流している空間ということが語られる。

地下街はさびれているが、人通りが途絶えたわけではない。テナントにはリサイクルショップや中古レコード店があり、後者の雑多な品揃えから、41年前のヒット曲だったピンク・レディー『ペッパー警部』のレコードジャケットが発掘され、地下街開業当時の風景とオーバーラップする。

新潟市西堀地下商店街、通称「西堀ローサ」は、地上駅や地下鉄と接続しない珍しい地下街だ。そんな地下街が存在するのか、と驚くが、古町ならばそうだろうな、とすぐ納得する。新潟市街部の公共交通網は脆弱で、道路交通への依存率が極めて高いのだ。

中心部の古町は昭和新潟大火(55年)と新潟地震(64年)の惨禍に遭っても、新潟市最大の繁華街として栄えていた。70年代に入るとモータリゼーションの波が押し寄せ、巨大な地下駐車場を作ることになる。駅につながらない地下街はその副産物なのだが、接続している三越や大和百貨店の客層とかぶらない若者向けのテナント構成が幸いし、80年代までは流行の最先端を走っていた、しかし、バブル崩壊後は信濃川対岸の新潟駅前や万代シテイが再開発され、若年層が流れたことから、古町全体が衰退していく。

一時はシャッター街と化していた西堀ローサは、中高年層向けのテナント構成に再編され、現在は330メートルの通路に33店舗が入っている。シャッター街から脱却するため、家賃は安いが、採算が取れるのかどうか怪しい店も多い。三越や大和の補完的役割を期待されていたのだろうが、新潟大和は2010年に閉店し、現在は解体作業が進んでいる。

地下街で夢を追う若者と、応援する老人

県内随一の膨大な在庫で、県外からもマニアが訪れる中古レコード店は、現在の西堀ローサでは成功例なのだろうが、古物商を数少ない商業的な成功例としている時点で、シャッター街の再生が容易でないことも見て取れる。実際、6月8日の新潟日報では、市関連施設の賃貸収入が6割強を占める「行政頼み」の体質で、2017年3月期決算では6年ぶりに最終赤字となったことが報じられていた。

とはいえ、活気のある部分を撮らなければ、番組は暗くなるばかりだ。なので、山田アナは地下街の奥に設けられた小さな無料ステージスペースへ足を運び、そこに集う人々にフォーカスを当てる形で「ストーリー」を展開していく。

歌やお笑いを舞台でかける夢を追う若者からは、コント芸人を目指している若い女性。老人たちの憩いの場という側面からは、病気でドラムをたたけなくなったが、毎日足を運んでライブを応援している老人。この2人の対比から、小さな無料ステージスペースが、夢追い人と応援する人々が集う人生の交差点であることが強調される。こうした都会のアジールにフォーカスを当てる趣向は同局の『ドキュメント72時間』と似た印象を受けるが、作り方は根本的に違う。

取材場所を固定し、3日間に訪れた人々の取材映像から面白い人間模様を拾っていく『ドキュメント72時間』は、取材場所の選択と事前のリサーチで予想できるとはいえ、運頼みの要素が大きい。そのため、本来のコンセプトを完全に遵守すると、回によっての当たり外れが激しくなる。実際、当たり回が多かった最盛期の2015年には、「偶然」を装った仕込みもあった、という告発記事が出ている。

『ドキュメント72時間』の面白さは、古典的な紀行ドキュメンタリーが偶然性を強調するリアリティショーの手法へ接近したことで生まれたものだが、ドキュメンタリーの看板で放送している以上、その面白さには限界がある。