けれど、ほとんどの男性はそちらには傾きません。私のなかにも加害者性はあります。親の世代から、さらにその前の世代から……脈々と受け継がれてきた男尊女卑の価値観を知らないうちに受け継いでいます。しかし、そこにとどまらないでいることもできます。自分自身が経験してきた社会との関わり、人との関わりによって変容し、「男性と女性は対等である」「女性を下位の存在として、支配してはいけない」という新たな価値観を自分の力で獲得していくのです。きわめて当たり前のことではありますが、特に男性がこうして学び直していかないと現代社会の秩序は守られません。

毎日乗る電車で誰も怖い思いはしたくない。

男性が“性”を使って女性を支配、コントロールするのも古くから社会のなかで行われてきたことです。日本以外でも、男女間のジェンダー差が大きい国ほど性犯罪が多いことがわかっています。男性全体で改めていかなければいけないこの根深き、そして悪しき慣習を、痴漢は無意識のうちに利用しているのです。それも自身の心の安定という身勝手な理由のために。

痴漢は、男性優位社会の産物です。常に人との関係で優位性を保てていないと不安定になるパーソナリティの持ち主がいるということを抜きにして、性犯罪を考えることはできません。

ストレスへの対処が下手だから生きづらい

プログラムの受講者や裁判に出廷する前の加害者らと面談をしていると、痴漢と生きづらさは決して無縁ではないことがわかります。生きづらさとは、けっしてその人自身に問題があるのではなく、社会や制度によって強いられることから生じる困難です。現代はほとんどの人が大なり小なりの生きづらさを感じながら生きています。生きづらさが多いほど、ストレスも募ります。

そんななかで彼らはストレス・コーピングの選択肢が少ない傾向があります。これは男性に普遍的に見られる現象であり、みずから命を断つ自殺者は男性のほうが多いことにもつながります。コミュニケーション能力が比較的高く、人との関わりのなかでストレスをこまめに発散するスキルが身についている女性と比べ、男性はストレスを溜め込みやすく他者に相談するというスキルが育っていないように感じます。人とのつながりも希薄で、さらに孤独感が増していくという悪循環。当人らもしんどいことは理解の範疇ですが、それによって他者を攻撃し尊厳を傷つけるのは断じて許されることではありません。

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