1955年4月、久山町に生まれる。父母と姉の4人家族。福岡大学附属大濠高校から同大商学部の貿易学科へ進む。本当は東京の大学へいきたかったが、父に強く反対されて断念。代わりに中古車を買ってもらい、車で通学した。卒業時、海外で仕事がしたくて、家業を継ぐのに抵抗した。でも、父に「絶対に継げ。お前の代でつぶしてもいい」と言い渡され、大学卒業とともに入社する。

社長になって3年、明太子が黒字化する1年前に、自社ブランド第2号の「キャベツのうまたれ」を発売した。スーパーを経営する元学友が「最近、焼き鳥がよく売れる」と言ったのが契機だ。タイ製の冷凍輸入した焼き鳥がよく売れていて、「博多の家庭なら、焼き鳥を食べるときはざく切りキャベツも食べたい。その『たれ』をつくれよ」と言われた。

そんなものは売れないと答えると、「売れなくても、『くばら』の名前を知ってもらえるぞ」と指摘され、気乗りしないまま、始めた。明太子で世話になった老舗百貨店の系列スーパーの焼き鳥コーナーに入れると、その社長がキャベツコーナーに置くことを提案した。やってみると、驚くほど売れた。これも、「多逢勝因」だ。

いまでも、安売りはしない。営業現場は苦しいと、「値引きしたい」といってくるが、却下する。販売量よりも大切なもの、それはブランドの力だ。そう言って、何度も怒った。自社ブランド品を手がけてもう20年を超えたから、いまでは社員たちも理解して、そこはぶれない。その経営方針が、後編で詳しく触れる「茅乃舎」の大ヒットにも、つながった。

久原本家グループ本社 代表取締役社長 河邉 哲司(かわべ・てつじ)
1955年、福岡県生まれ。78年久原調味料(現・久原本家食品)入社。96年くばらコーポレーション社長。2004年、農業生産法人「美田」を設立。05年レストラン「茅乃舎」を開業、「茅乃舎だし」を発売。13年久原本家グループ本社を設立、社長に就任。
(書き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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