日本人の「当たり前」は通用しない。日本の商習慣の説明を

エクスパットが日本人部下から聞きたい日本の商習慣は、業界の慣例や人事採用の仕組みだけではない。取引先との歴史や関係などもそうだ。お互いの認識がズレたままでは、進む話も進まないためだ。

「何かを決めるときにも、『背景としてこうなっている』というのが分かっていないと『こんなミーティング、やっていられるか!』となってしまいます。外から来た人たちは、なぜそんなことをやるのだ?と疑問を抱いても、いちいち自分から聞いて回る時間もない。何か違うのかがよくわからない。だからピリピリしてしまうんですね。

日本にはユニークなこと(他国と違う、独自の習慣や考え方など)がいっぱいあります。日本の外に出たことがある人でないとそのユニークさに気づくのは難しいかもしれませんが、『これが当たり前だから』『今までこうやってきたから』とは思わずに、いろんな慣例や商習慣、取引先との歴史などは丁寧に説明したほうがいいと思います。人が変わるとまたゼロから説明しないといけないので大変ですが、迎える側の人は説明の準備をしておくといいでしょう」(河野氏)

「家族は仕事よりも大事」が当たり前

エクスパットと接する際、日本人と大きく違う点の1つが、「仕事よりも家族を優先するのが当たり前」な傾向だと河野氏はいう。

「とにかくみんな、日本人には考えもつかないくらい家族を大事にします。慣れない日本での暮らしで困っているのは奥さんも同じなので、何かあるたびに会社に電話がかかってきます。大変なミーティングの間だろうとなんだろうと、彼らはちゃんと妻に対応します。奥さんも仕事を持っているならば、家族のために早く帰って子供といっしょに食事をとります。奥さんと約束している時間になると、社長が会議の途中でもパッと立ち上がり『約束の時間だから帰る。あとはみんなでやっておいて!』と言って帰ってしまうのが普通です。そんな場面を何度も目の当たりにしました。彼らにとっては、そうすることが当たり前ですし、また、異国の地で家族を守るというプレッシャーもあるわけです」(河野氏)

日本に来ることは彼らにとって将来の道が開けるチャンスでもあるが、決して楽な道でもない。彼らは家庭と仕事の責任とキャリアを全部背負いながら、でもクールな顔をしてオフィスのチェアに座っているのだ。パリッと仕立てられたスーツを着こなして。

「それを考えると、日本人側の英語がうまく話せないなんて悩み、全然大したことじゃないと私は思うんですよ」(河野氏)