つまらない仕事をコツコツやっていた、かつての新入社員時代の同期たちは、今は業界で活躍中です。彼はどうかというと、間もなく失業保険が切れ、貯蓄もありません。「近所のコンビニのバイトは時給1200円だって。時給が高くなったよな。次の就職までバイトしようかな……」。ため息まじりに語る彼に、かける言葉はありませんでした。

「好きなことだけしたい」は結局「自分探し」にすぎない

これは実際にいる知人をモデルにして一人の話にまとめたものですが、あなたの周りにもきっと同じような人がいると思います。

彼の何が問題だったのでしょうか? 結論を言えば、30年間ひたすら「自分探し」しかやっていないからです。どこかに「本当に自分が好きな仕事がある」と考える。そしてひたすら「好きな仕事」に巡り会うチャンスを追い求めてきたのです。

永井孝尚氏

しかし現実には、最初から自分の希望通りの仕事ができることはめったにありません。仕事は顧客がいて初めて発生するものです。もし好きなことをやりたいのならば、お金を払う顧客がいる「仕事」ではなく、顧客を気にしなくてもいい「趣味」としてやるべきでしょう。顧客の存在が大前提となる仕事では、現実には希望しない仕事を与えられることが多いものです。また希望する仕事に就いたものの「実態は想像とは違う」ということもあります。

小林の場合も、「これだ! これぞオレがやりたい仕事だ」と意気揚々と職に就いたものの、「話と違うじゃないか。これはオレがやりたい仕事じゃない」と失望し、離職することを繰り返してきたのです。

最近、まさに小林が望むように「好きなことを仕事にしている人」に出会う機会がありました。その人は30歳のカメラマン助手で、ある芸能人の写真撮影でご一緒しました。

「どのくらいこの仕事をしているんですか?」
「10年です。助手以外にもフリーランスで写真全般の仕事を受けています。ボクの天職ですよ」

彼は高校を卒業後、もろもろの事情で大学には進学せずに就職を決め、カメラメーカーに就職したそうです。当初は希望しない仕事だったため、大学に進学した同級生がうらやましかったと言います。仕事は「販売支援」として、小売店の店頭でカメラを売ることでした。どうにか販売台数を増やそうと、自分が撮影した写真を「作例」として店頭に出してみたところ、お客さんが興味を持ち、カメラが面白いように売れ始めました。これが初めて「写真は面白い」と思ったきっかけだったそうです。そのうち写真の修整の仕事も始めました。そして徐々に仕事が広がり、現在は独立して写真の仕事をしています。

2人の差はどこにあったのでしょうか? どんな仕事でも楽しい部分もあれば、イヤな部分もあります。やりがいは0か1かではありません。0から1の間にあるものです。小林は「本当に自分が好きな仕事は、必ずどこかにある」と考え、探し続けました。一方で写真の仕事を見つけた彼は「やってみると面白い」と、与えられた仕事のなかから楽しさややりがいを見つけ出しました。つまり、与えられた仕事でもイヤな部分ばかりを見ずに、自分なりの楽しめる部分を見つけ、それを育てて広げていくことを考えるべきなのです。