2.仕事の本題に入る前に「スモールトーク」で心の距離を縮める

仕事で会う場合でも、「日常会話は、プライベートな雑談から始めるといい」と河野氏。1対1で話すときもそうだし、会議の前でも同じだという。これから仕事の話をするというときに、いきなりプライベートの話? と思うかもしれないが、それには理由がある。

「いきなり仕事の話はせずに、まずその場を和ませるんです。ご近所の井戸端会議みたいな話を、ミーティングが始まる直前に1~2分くらい平気でします。はじめに少し雑談をして和やかな空気になってから、『じゃあ今日はこういうことを話そうか』と本題に入る、という流れですね。これを“スモールトーク”ともいいます。日本人同士ならいきなり仕事の話から入ってもいいかもしれませんが、英語圏にはいろいろな人がいます。互いのテンションや温度を合わせるために、おしゃべりをして場を和やかにして、それから共通の話題で同じ土俵に上がるんです。スモールトークは、張り詰めている空気を柔らかくして、同じ温度感で取り組むためのエッセンスです」(河野氏)

ただ、雑談慣れしていない日本人にとって、ましてやそれを英語で、となるとかなりプレッシャーに感じるだろう。しかし難しく考える必要はない。「Hi. How are you doing?」「It’s hot today.」といった簡単なあいさつやお天気ネタ、週末にどう過ごしたか、家族のこと、好きな食べ物の話など、話題は何でもいい。

「今日のネクタイはステキですね」など相手の持ち物や洋服などを褒めてみるのもいい。身体的な特徴を話題にするのはよくないが、装いを褒められれば、悪い気はしない。『その先に話を広げられない』と心配しなくても、褒めれば相手は「妻にもらったんだ!」などと、どんどん話してくれるだろう。

「相手が話す内容を聞き取れなかったらどうしようと心配かもしれませんが、そんなときはニコニコ聞いているだけでもいいですよ」(河野氏)

3.名前は大事。知っていると信頼につながる会話マナー

仕事で英語を話す際、会話マナーの観点で特に気をつけたいポイントが4つある。(1)相手の名前をできるだけ正確に発音する(2)本人のいる場所ではheやsheを使わず、常に名前で呼ぶ(3)身ぶり手ぶりや語調に注意(4)お礼は具体的に、である。

(1)相手の名前をできるだけ正確に発音する

自分の名前を呼び間違えられたら不愉快な思いをするのは万国共通。よくある落とし穴は「名前を間違ってローマ字読みされてしまう」ことだ。

日本人向けに、英語のほかにカタカナでも名前が書かれた名刺を持っている場合もあるが、そのカタカナ表記が本人が望んだ発音になっているとは限らない。日本人は発音しにくいとつい日本語風にローマ字読みをしてしまいがちだが、名前の場合は避けたほうがいい。本人に直接名前の発音を聞き、できるだけ本人の発音に近づけて呼ぶことを心掛けよう。

「名前は、なるべく本人が慣れている本国での発音で呼んであげたほうが、本人はうれしいです。私もかつて、名刺に書かれた名前と、本人が自己紹介で話した名前が一致していないケースを経験しています。『本当は違うんだが、みんなそう呼ぶんだ』とその方は大変気にされていました。確かに日本人には発音しにくい名前だったのですが、私は意識して正しい発音を心がけていました。すると、私が名前を呼ぶとパッと顔が明るくなるんです。その方とは仕事上よくぶつかる立場でしたが、普段はとても気に掛けてもらえましたよ。

自分の身に置き換えたらわかりますよね。自分の名前をずっと間違って呼ばれ続けたら、誰だっていい気持ちはしません。ビジネス英語に限らず、人間対人間の付き合いとして大事なことです」(河野氏)

ちなみに呼びかけるときの敬称は、「スミスさん」など、さんづけでいい。「日本では相手の名前に『さん』を付けて呼ぶ」という習慣は、ビジネスで日本にやってくる人たちにはよく知られているためだ。ファーストネームで呼ぶか名字で呼ぶかは社風によるそうだ。

(2)本人のいる場所ではheやsheを使わず、常に名前で呼ぶ

名前に関してはもう1つ、日本人に盲点がある。それが2つめの「本人のいる場所では名前を呼ぶ」ということ。日本人同士では、目の前に本人がいても「彼は」「彼女が」と三人称を使いがちだが、英語圏では本人を前にして三人称(he/she)で呼ぶのは部外者扱いになり、失礼にあたるという。

もし本人を前に「This is Mariko.」といったら、その後は「Mariko is a friend of mine.」など何回でも名前で呼ぶのが鉄則。つい「She is~」と言いたくなってしまうかもしれないが、“本人がいる前では必ず名前”と肝に銘じておこう。