農協、保険、政治……本質を見つめ直して先読み力を

<strong>早稲田大学大学院 ファイナンス研究科教授 川本裕子</strong>●1982年、東京大学卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。88年、英オックスフォード大学大学院経済学修士課程修了。マッキンゼーを経て、2004年より現職。
早稲田大学大学院 ファイナンス研究科教授 川本裕子●1982年、東京大学卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。88年、英オックスフォード大学大学院経済学修士課程修了。マッキンゼーを経て、2004年より現職。

考える力の基本は正しい知識や経験によって現状を正確に認識することです。たとえば、最近、誰もが「100年に一度」というフレーズを使っていますが、これはグリーンスパン米連邦準備制度理事会前議長が金融市場について語った言葉で、それが世界経済全体の代名詞のように使われている。そんな事実を理解している人はどのくらいいるでしょうか。

知っているようで本質を理解していなかったということは多々あるのです。たとえば、事実が巧妙に覆い隠された社会の現状を見つめ直す本を手に取ることから始めてほしい。『世襲政治家がなぜ生まれるのか?』は日本の民主主義の根幹について問題提起をしています。『生命保険はだれのものか』は、深い知識と経験で日本の生命保険の実態を解明しています。

現実を把握しつつ、経済学の基礎や大枠を学ぶとよいでしょう。『コア・テキスト経済史』は、経済史をはじめて学ぶ学生向けのテキストですが、歴史上存在した経済的制度・組織が担ってきた役割がわかりやすく書かれています。

問題の全体像をまずつかみ、そして課題を把握したら、なぜそれが起こっているのか、その結果どうなるのか、考えてみる。「なぜ」を5回繰り返すのもよいでしょう。そうするうちに世界や日本の現実、課題は何か、その解決策は、と考える力がついてくる。目の前の仕事や情報をただ処理するのではなく、先を見据えて思考を深めることが最も大切に思われます。