時代の変化を先取りし、福井から新しい風を吹かせたい

一歩先の未来を見すえながら、時代の要請に応える工業大学のあり方を追求する。そんな姿勢で半世紀以上、人材の育成と研究に取り組んできたのが福井工業大学である。2015年の学部再編では、工学部に加えて、環境情報学部、スポーツ健康科学部を新設。3学部8学科の工科系総合大学に生まれ変わった。また、宇宙をテーマに地域と協働する「ふくいPHOENIXプロジェクト」なども注目の的だ。同大における教育の理念や特徴について、森島洋太郎学長に聞いた。
森島洋太郎(もりしま・ようたろう)
福井工業大学 学長
理学博士

1962年大阪大学理学部化学科卒業。72年同大学理学研究科高分子化学専攻博士課程単位取得満期退学。同大学教授、総長補佐、理学部長を経て、2002年福井工業大学教授。副学長を経て13年より現職。
 

分野を横断した知識が技術者にも求められる

「本学では1965年の開学以来、人材の育成に軸足を置き、時代に応じ、社会に求められる“実践的な技術者”の養成に取り組んできました。ただ社会や産業の構造が急変していく現在は、変化に追従するだけでなく、変化を先取りする。そうした発想が欠かせません」と森島学長は言う。そして次のように続けた。

「製造業においても、ハードばかりでなくソフト面での勝負が重要になる中、今後は技術者であっても、分野を横断した幅広い知識を身に付け、それを柔軟に生かす能力が求められます。そこで本学でも、文理を融合した自由度の高い履修制度を設け、課題解決型のプロジェクト教育なども重視。コミュニケーション力やリーダーシップ、協働する力をはじめ、社会人基礎力(※1)も含めた総合力の養成に力を注いでいます」

研究分野でも、時代の先を読んだ独自の取り組みが進行中だ。その一つが文部科学省の「私立大学研究ブランディング事業」にも採択された「ふくいPHOENIXプロジェクト」。所有する北陸最大となる直径10m超のパラボラアンテナなどの設備と衛星データ活用の研究の蓄積を生かし、地域への貢献を目指す。

「プロジェクトでは県内企業の部材を使った超小型衛星の打ち上げや農業、防災分野での衛星データ活用も計画しています。大学が社会に率先して未来への指針を示す意義は大きく、こうした挑戦が学生の視野を広げることにもなると考えています」

多彩な取り組みで育む「GLOCAL」な人材

同大では育成のキーワードの一つに「GLOCAL」を掲げている。

「しっかりしたアイデンティティを持ち、異文化のなかでも物怖じせず、世界的な視野のもと、地域視点で行動できる人材の育成を目指しています。英語発信力の強化プログラム『SPEC』や海外企業でのインターンシップの実施もその一環です」

学内には世界11カ国から全学生の約5%に及ぶ115人の留学生を受け入れ(※2)、タイには帰国した留学生を支援し、同時に海外インターンシップの拠点ともなる「ASEAN事務所」を設置。全国の日本語学校が在校生に勧める進学先を選ぶ「日本留学AWARDS」も3年連続で受賞した。こうした多様な実績は、学生の意識醸成に寄与している。

「前回の海外大学との合同シンポジウムでも、短時間に打ち解け合い、共同で作業を進める学生の様子に感心させられました。今の時代、福井県内や北陸のほか、どこで就職するにしても、仕事上、海外と一切関わりを持たないということはほぼないでしょう。そうした中で主体的に行動するためには、語学力や協働する力はもちろん、まずしっかりした自分の意見がないと始まらない。大学の公認のもと、学生が主体的に取り組む『学生プロジェクト』なども、その面の強化に効果を発揮していると考えています」

地域と一体となって独自の先進的な活動を

現場で生きる人材育成へのこだわりは各学部での教育の場面でも徹底している。例えば工学部原子力技術応用工学科では、世界最先端の技術を持つフィンランドでの研修や電力会社でのインターンシップなどを実施し、最先端の知識と実務型の技術を習得できる環境を整えている。

「原子力発電に対しては多様な意見がありますが、現に稼働している発電所の安全性を確保し、また廃炉などを確実に進めるための技術は社会に欠かせません。本学で開発した除染技術は福島でも利用が予定され、現在実証段階に入っています。そうした実践的技術を継承し、発展させるため、今後も福井工業大学ならではの取り組みを進めていきます」

学習環境の特徴について尋ねたところ、まず挙がったのが学生と教職員の距離の近さだった。教育の現場においては、何より“学生の満足度”を重視していると森島学長は言う。それは優れた企業が顧客満足度を大切にするのと同様の考え方だ。

「卒業時の無記名調査では、うれしいことに本学を卒業して良かったという回答が9割を超えています。今後も地方大学としての機動力を生かしながら、地域と一体となって、独自の先進的な活動を推進していきたい。繰り返しになりますが、それによって、社会が必要とする“実践的な技術者”を養成していくことが私たちの役割だと考えています」

(※1)「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力から構成。「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として、経済産業省が2006年から提唱。
(※2)2017年度実績。

「ふくいPHOENIXプロジェクト」を推進

北陸最大・直径10m超のパラボラアンテナを生かし、3つの軸から「宇宙」事業推進のために地域と協働

衛星の開発・運用、利用を通した宇宙研究の推進
県内企業が製造した部材を用いた低価格、高性能な独自の超小型衛星を開発・運用。衛星利用研究の推進などもあわせ、地域企業の宇宙産業活用の促進を狙う。

衛星データの農業・防災への活用などを通じた地域振興
衛星データを地元の環境計測などに役立ててきた実績をもとに、農作物の生育診断や管理、防災など幅広い分野に応用。県内自治体の産業活性化と防災推進を目指す。

「宇宙」を題材にした地域の観光文化の活性化
県内の自治体施設と連携し、宇宙を題材にした地域資源を発掘・深化。夜空観測における「日本一美しい星空」のブランド化もあわせ、地域の観光文化の振興につなげる。

GLOCALの視点を重視した多彩な取り組み

タイで行われた海外インターンシップ。数人ごとに受け入れ先企業に分かれ、現地スタッフと協働する。

 

海外提携校との合同シンポジウムでの記念撮影。

 

大学祭では各国からの留学生が模擬店で自国の料理を披露する。

 

原子力分野で先進的かつ実践的な人材を育成

文部科学省「原子力人材育成等推進事業」として、フィンランドでの研修を実施。現地の研究所や発電所、建設中の最終処分場を訪問した。