「障害児を持つシングル母だから」投票した人への裏切り

誰よりも激しい怒りを覚えているのは、昨年の参院選で今井氏に投票した有権者かもしれない。その怒りの原因は、3)裏切られたという思いだろう。

というのも、今井氏は、聴覚障害を持つ長男を女手一つで育てているシングルマザーであることを最大の“売り”にして出馬し、当選したからだ。

参議院選挙で初当選して、安倍首相と笑顔で握手(写真=AA/時事通信フォト)

今井氏が、とくに子育て世代の女性たちの支持を集めた一因に、障害児を持つシングルマザ―という二重の“不幸”があるのは否定しがたい。長年政治家の秘書を務めていた方から、「“不幸”は票になる」と聞いたことがある。

たしかに、議員が急死した後、未亡人もしくは遺児が立候補して「弔い合戦」をすれば、勝利の可能性は格段に高まる。中には、病気や障害、離婚や死別などの自分自身の“不幸”をあえて前面に出し、“売り”にしているように見える立候補者もいる。

これは、同情票が集まるからだろう。今井氏の場合も、「障害を持つ息子を抱えて苦労しているシングルマザーだから、入れてあげよう」と同情票を入れた有権者が少なくなかったのではないか。

「奪われた」税金が不倫や密会に使われた

ところが、1年後に、息子のことは母親に任せて、好意を抱く男性と一緒に過ごす時間を大切にしている姿が報じられた。しかも、「快楽への欲望」に支配された「放縦」そのものの姿を撮られて。

これでは、せっかく今井氏に投票したのに、裏切られたと感じる有権者がいても不思議ではなく、激しい怒りを覚えるはずである。

4)被害者意識を抱いた国民が少なくなかったことも、怒りに火をつけたように見える。「国民の税金を密会に使っていたんですか」「不倫のために税金使うな」「こんな議員たちを食わせる税金は払いたくない」という声に端的に表れているように、自分の払った税金が2人の快楽のために使われたことへの怒りが非常に強い。

これは当然だ。2人とも議員であり、多額の報酬が国民の血税から支払われている。また、国会議員には「JR無料パス」が支給されるが、これを利用して今井氏が東京―大阪間を移動し、手をつないで眠りこけていたのだとしたら、「私たちの税金が、あんなことに使われて」と誰だって怒るだろう。

そもそも、人間というのは、ルネサンス期の政治思想家、マキアヴェッリが見抜いているように、「殺された父親のことは忘れても、奪われた財産のほうはいつまでも忘れない」(『君主論』)。