信頼を失った人物が手掛ける人事の効果は限定的だろう。自民党にとって悩みは、安倍氏を交代させるという選択肢を持たない、というところにある。

政権転落決定後、5人目の代表

一方、民進党である。この党はトップが変わることに対し、ためらいはないようだ。2012年12月の衆院選で敗れて野田佳彦代表(首相)が民主党代表を辞任。以降、海江田万里氏、岡田克也氏、蓮舫氏がトップの座についてきた。5年に満たない間に、5人目の代表が誕生することになる。

「野党だから気楽にトップが変えられるのだろう」という指摘もあるだろう。しかし、民主党は2009年から12年末までの政権担当時にも、鳩山由紀夫氏、菅直人氏、野田氏の順で3人が代表につき、首相の座も「たらい回し」している。

「内紛がお家芸」の党は、トップを変えるのもお家芸なのだ。もちろんこの体質は、党のガバナンスの欠如を示しており、党の長期低迷の要因にもなっている。今回の蓮舫氏の辞任に対しても国民の視線は温かくはない。「またか」というのが率直な感想だろう。

しかし、トップを変える選択肢を事実上持たない自民党にとっては、選択肢を持つことはうらやましいともいえる。5月、まだ安倍内閣の支持が安定していた頃、自民党幹部から「正直なところ、都議選では民進党はあまり負けないでほしい。惨敗して蓮舫氏が辞任し、新しい代表が誕生すると面倒だから。次の衆院選は蓮舫代表のままが楽だ」という話を聞いたことを思い出す。この幹部は、蓮舫氏の辞任の知らせを聞き、自民党にとっては好ましくない展開になっていることを認めている。

これ以上皮肉な話はないが、今の民進党にとって「トップが辞める」という捨て身の技は、「トップが辞めない」自民党に対抗する数少ない武器なのだ。

(写真=時事通信フォト)
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