女性を特別にピックアップはしない

「うちは『フライト』という、たった一つの商品だけで、年間1兆円以上を売り上げる会社です。3万3000人のグループ社員全員がその一つの商品を作り上げるために、総力を合わせて仕事をする。そのためには現場で働く人たちが中心になって、必然的に動いていく組織をつくらなければならない」

植木社長はそう語ると、「例えば」と続けた。

「コックピットにいると、離陸の前のプッシュバックのとき、整備士やグランドハンドリングの人たちが、一列に並んで頭を下げ、手を振ってくれるのが見えます。彼らは『いってらっしゃい』と言っているんじゃない。『機長さん、最後は頼みますよ』と伝えてくれているんです。つまり、飛行機を飛ばす仕事はチーム戦。みんなで寄り集まってたった一つの商品をつくる。すべての部署で働く社員がその意識を持てば、必ずや強い組織ができるはずだと私は考えています」

代表取締役社長 植木義晴氏

グループ会社の壁をなくし、「JALなでしこラボ」などの取り組みを通して、現場の声を働き方の改革に活かしていく。「机上の空論ではなく、そうした現場からの改革を進めていくこと」が現社長の徹底した基本方針だ。

「組織におけるダイバーシティとは、現場でさまざまな個性を持った個人や集団が本音でぶつかり合い、そこに摩擦が生まれ、イノベーションが発生するところに意味がある。その意味では、初のパイロット出身の社長である自分こそが、そのダイバーシティを体現しているという気持ちが私にはあるんです。自分は25%の総合職の社員ではなく、現場で働く75%の社員の代表なのだ、というね」

現在、JALの取り組みはまだ始まったばかりの段階だ。業務の効率化や働きやすいオフィスづくりなどを同時に進めながら、今後は女性管理職比率20%を直近の目標に、社内の意識・制度の改革を進めていく予定だ。

「崩し将棋と同じように、フライトは1つの駒が抜けただけでも必ず崩れる。だから、飛行機を飛ばすためにいらない人は誰もいないんです。『JALなでしこラボ』での研究発表も、自分はこの会社に絶対に必要なんだと感じる場の一つ。私は女性活躍推進で女性を特別にピックアップするつもりはない。女性が活躍できる制度や働き方、その土台となる意識を高め、ダイバーシティを推進する。最後はそこから這い上がった人を、しっかりと拾い上げるのが自分の役割だと考えています」

撮影=岡村隆広