そのうえで「トランプ政権誕生後、対米観は中南米でも大幅に悪化した。米調査機関ピュー・リサーチ・センターが37カ国で行った世論調査によると、ブラジルでは2年前は73%の人が米国に好意的だったのが50%に急落。メキシコの場合は30%と、半分以下に減った」と中南米での対米観の悪化を強調する。

支持層だけに顔向け、万人の指導者ではない

この後、「トランプ氏がキューバ政策転換を発表した場所は、大統領選の重要州であるフロリダだ。カストロ体制に反感を抱き、融和に反対するキューバ系移民を前に演説した。支持つなぎとめが狙いだったのは明白である」と最後の主張に続ける。

「(地球温暖化対策の国際的枠組みの)パリ協定離脱も支持基盤の炭鉱労働者向けの政策だ。トランプ氏は一貫して自分の支持層だけに顔を向けている。万人の指導者の姿ではない」

「国際社会は米国抜きの秩序を模索し始めた。自国の存在感が急速に薄れていくこと、それが米国自身の損失であることをトランプ氏は自覚してほしい」

この主張を読むと、日経社説と同じように「国際社会での米国抜きの秩序」を重視し、5月の先進7カ国(G7)首脳会合、7月の20カ国・地域(G20)首脳会合などアメリカが抜けても、世界は今後、アメリカの存在なしで世界の秩序を保っていく覚悟をしなければならないことが、よく伝わってくる。

ロシアゲートへの分析が足りない朝日社説

やはりトランプ政権の今後を考えるうえで欠かせないのがロシアゲート疑惑だ。日経社説も「足を取られる」と断言しているが、ここではトランプ氏とロシア・プーチン大統領の初会談を扱った7月10日付の朝日新聞の社説を読んでみる。

見出しは「米国とロシア 建設的な大国関係を」である。社説の真ん中辺りで「昨年の米大統領選の際、ロシアがサイバー攻撃などで介入したとの疑惑については相当の応酬があったようだ」と指摘しているが、「トランプ政権はこの疑惑で揺れている。ロシア側に懸念をぶつけたのは、米国民向けの演出の側面が大きかっただろう」と解説する。

朝日社説にしては分析が足りない。多くの読者は、釈然としない思いを抱くはずだ。それだけロシアゲート疑惑が本物の事件になるのが難しいのか。

共和党のニクソン米大統領を失脚させたウオーターゲート事件とは違い、ロシアゲート疑惑は「決定的な証拠に欠ける」というのが専門家の見方である。

朝日社説は「両国はこの会談でサイバー安全保障に関する作業部会をつくる合意をした。世界が不安を抱えるサイバー問題に取りくむ姿勢を米ロが示す意義は少なくあるまい」とロシアゲート疑惑にはこれ以上言及せず、曖昧な論評に終わっている。

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