訪問客300万人から発生する観光消費は「ゼロ」

そして、このバリケードの存在が本来ならば本イベントによって付随的に発生するはずの域内での消費を文字通り「殺して」しまっている。数百万人の訪問客が来場し、会場までの道のりに1時間を費やしたとしても、その来場客はバリケードの存在によって街と物理的に分断されてしまっている。

このバリケードが設営される地域は通常時は飲食店や、服飾品を販売する小売店などが建ち並ぶ繁華街であるが、イベント来場者はこの地域を通過するものの、バリケードに阻害され近隣の商店に立ちよって消費を行うことはできない。

もっといえば、実はこのイルミネーション・イベントは神戸市および兵庫県の助成と、周辺で商業を行う企業などからの協賛金から成り立つ「参加無料」のイベントである。すなわち訪問客300万人が1時間並んでイルミネーションを観覧するこのイベント「そのもの」から発生する観光消費は、文字通り「ゼロ」なのだ。

しかも、前述のとおり近隣商店街はバリケードによる厳しい交通制限を受けているため、通常の営業すらままならない状態となっているわけで、実は近隣商店の中にはイベント開催期間中は商売にならないとして長期休業にしてしまう店舗も少なくない。結果、近隣企業からの協賛金が思うように集まらず、資金難に陥ってしまうも無理もない話である。

▼「地域に客を集める」だけでなく、どう消費を生み出すか?

繰り返しになるが、観光客が地域に来訪する事は根源的に、そこに居住する市民にとってはコストである。観光客を多数誘致したにも拘わらず、そこで発生する様々なコストを上回る経済効果が地域に生まれなければ、観光振興施策はただ地域のリソースだけを浪費して、リターンを生まないマイナスの政策になってしまう。

現在、我が国は観光振興ブームの真っ只中にあり、どの地域に目を向けても「猫も杓子も観光振興」状態にあるが、各地域で観光振興を主導する人々は、ただ「地域に客を集める」ことだけでなく、「そこからどうやって消費を生み出し、地域にそれを還元するのか」にもっと真剣に取り組む必要があるといえるだろう。

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